渡り廊下、カラッカラに乾いた口の中。
溢れる鼻血。
混乱した頭の中では撮り貯めてきたスケベストショット集が走馬灯の様に流れる。
A組の佐藤くんは“ベスト・オブふくらはぎ賞”受賞。
水泳部西尾くんの大殿筋はかつて無い美しさで、そこに家を建てて永住したいくらい。
D組の磯崎くんはおとなしそうに見えて意外と猛々しい胸板の持ち主、ギャップが最高だ。
不審そうに顔を歪ませた紗季が私を見ている。
ギャルグループの女子達、それに含め会長も。
この目には覚えがある。
みんながみんな、私にその目を向けた。
忘れもしない最悪の過去。
―――遡ること10年。小学2年生の頃―――
騒がしくなる教室の中、大好きな男の子と隣の席だった私はすっかり舞い上がっていた。
何となくだけどりっくんも私のことが好きなんじゃないかって思ってた。
りっくんは運動のできるクラスの人気者。
私が初めて好きになった人。
めいっぱい息を吸って、大好きな想いが届くように気持ちを込める。
教室中に響いた私の声。
りっくんの顔がトマトみたいに真っ赤になって、それにつられて私の顔も赤くなる。
男子たちの“すけべぇコール”を鳴り止ませようと必死な先生。
私に向けられた女子たちの目線。
恋じゃなかった。
この気持ちは悪いもの。
人にはバレちゃいけない気持ち。
りっくんは、その日から私をいじめた。
そして一ヶ月後、りっくんは転校してあっけなく私の前からいなくなった。
ーーーーそして現在ーーーー
紗季があの頃の女子たちのような目で私を見ている。
ああ、終わった。
サヨナラ私の高校生活。
また会ったね“すけベぇ”生活。
振り返ると、立っち去ったはずの遊佐くん。
瓶底メガネ越しに私を見つめ、鼻に無理やりティッシュをねじ込んでくる。
ティッシュカバーには変なヒーローキャラクター。
偏屈な遊佐くんにお似合いだ。
ガシッと握手されたかと思うと、何事もなかったかのように立ち去る遊佐くん。
ヒカル会長が心配そうに私に微笑みかけ、私の頭をポンポンする。
キラッキラのヒカル会長は私だけに分かるようにウインクした。
この日、私の中のスケベストショットMVPに遊佐くんがランクインした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!