第8話

ドSな遊佐くんに弱みを握られています
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2018/11/23 09:01




何が起きたのかわからなかった。


唇にふわりと柔らかい感触。遊佐くんのドアップ。


頭の中が真っ白になって、足元がふわふわする。

離れていく顔は夕日に照らされ、長いまつげがオレンジ色に染まっていた。

遊佐
遊佐
ごちそうさま

ぺろりと舌を出していじわるく笑う遊佐くんの前で、
私はズルズルとしゃがみこんだ。
心美
心美
な、今の、キ、キキキキス?!
心美
心美
(ファ、ファーストキスだった
のにぃいいいい!!!)


まるで全身が心臓になったみたいに
ドクドクと脈打つ。

それにつれ鼻血は更に勢いを増す。

遊佐くんはそんな私の前にしゃがみこみ、
優しく頬を撫でた。
遊佐
遊佐
びっくりした? ごめん、俺……つい


そう言って申し訳なさそうに眉を下げる。
心美
心美
(あ、あれ、優しい……?)

しかし気を抜いた瞬間、ガッと顎を掴まれ
強引に上を向かされる。
遊佐
遊佐
なーんてな
ははっ! アホ面だな、すけべぇ
心美
心美
うっ(まんまと引っかかった!!
く、悔しいぃいい!!)
心美
心美
ゆ、遊佐くん!
すけべぇって呼ばないでよ!!
心美
心美
(ん?待って。  すけべぇって……!
このドS、私がスケベなの知ってるんだった!!)

私の脳内で、スケベ心達が緊急会議を始める。
スケベ心
スケベ心
スケベ女子であることは
知られてはならない!!絶対にだ
スケべ心
スケべ心
そうだ!
このドS、何をしでかすかわからない
スケベ心
スケベ心
危ないな
ここは下手に出て口止めを!!


私は盛大に土下座した。
心美
心美
どうか!
どうか私がスケベ女子だということは
黙っていていただけないでしょうか!!


コンクリートに頭を擦り付けるように、
それはもう綺麗な土下座だっただろう。
遊佐
遊佐
お前、ばかだろ
心美
心美
(やっぱり……だめか。ああ、さらば青春。また会ったね、すけべぇ生活)
遊佐
遊佐
言いふらすなら
もうとっくにしてるだろ
心美
心美
え?


顔を上げる私の頭を、ぽんぽんと撫でる遊佐くん。
遊佐
遊佐
ガキじゃねぇんだから
そんなことしねぇよ
心美
心美
ゆ、遊佐くん!!! ありが――
遊佐
遊佐
そのかわり

口角を挙げて笑う遊佐くんはまるで悪魔のよう。
遊佐
遊佐
今日からお前の放課後は俺のもんな
心美
心美
え?
遊佐
遊佐
逆らったらどうなるか……わかるだろ?
心美
心美
(うっ、遊佐くんの頭に悪魔の角が…)
心美
心美
は、はい……
遊佐
遊佐
よろしい!


そう言って遊佐くんは嬉しそうに笑った。

それを見た私の胸は、なぜかぎゅっとなる。

心美
心美
(か、かわいっ……いやいや、ドSだよ? 笑顔ごときに騙されるな私!)
心美
心美
あれ? そういえば、遊佐くんは
どうして普段変なメガネなの?
メガネさえ取れば――
遊佐
遊佐
色々、面倒だから
心美
心美
え? なんで?
遊佐
遊佐
どうでもいいだろ?
そんなことより、さっそく今から
いいところに連れてってやる
心美
心美
(あれ、はぐらかされた。 これ以上聞かない方がいいのかも……)
遊佐
遊佐
その前に、お前
…ったく、いつまで鼻血たらしてんだよ

遊佐くんはティッシュをグリグリと
鼻に突っ込んでくる。
心美
心美
(そういえばこれ、前もしてくれた…)
心美
心美
遊佐くんって、意外と面倒見いいよね
優しいし、人をよく見てるっていうか
遊佐
遊佐
はぁ?! 
くだらねえこと言ってんじゃねえ!
もう行くぞ

遊佐くんは焦った様子で強引に私の手を引き
すたすたと歩き始めた。


心美
心美
あれ、もしかして……照れてる?
遊佐
遊佐
は!? うるせぇ、変態すけべぇ女!!




遊佐くんの耳が赤いのは、
夕日のせいじゃなかったらいいのに。



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