雨の降る放課後の校舎裏。
後ろには壁、目の前には怒った顔のさっちょん。
背中にはじっとりと汗がにじむ。
そう言い残しさっちょんは雨の中を走り去っていく。
私の言葉は悲しくも雨の音にかき消されてしまった。
そういえば私
さっちょんに大事なことなにも話してない。
誤解だけどさっちょんは宣戦布告なんて言いづらいこと、はっきり言ってくれたのに……。
とぼとぼ雨の中を歩いていると、急に雨が止んだ。
いや違う、これは傘?
ぐっと顔を寄せ、私を覗き込む遊佐くん。
恥ずかしさから傘の中から逃げ出すと
遊佐くんに腕を掴まれる。
掴まれた場所から遊佐くんの体温が伝わってきて
心拍数が上昇する。
傘を差し出してくる遊佐くんは
それはそれは頑固だった。
打ち付ける雨の中、しばらく傘を押し付け合う。
私のスケベ心が太鼓を叩き始める。
ツーー、と鼻血が垂れるのがわかった。
すると急に手首を引かれ、さっきより近い距離に遊佐くんの顔。
いつもより低い声と、荒い口調。
遊佐くんの吐息が耳にかかる。
心臓はバクバクと体中に血液を送り始める。
遊佐くんは傘をその場に置いて走っていった。
鼻血が雨で流れていくのを感じながら
私は呆然と立ち尽くした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。