ロンダートって、両手を地面について一回転、側転の体勢から最後は両足揃えて着地する、あれだよね?
奏の弟の良哉くんはまだ四歳。幼稚園の年中さん。四歳でロンダートができるなんてそれはすごい。姉に似て運動神経抜群だな。
だけど確かに、いきなりあれをやられたところで、女の子はぽかんとするだけだろう。
かっこいいアピールをしたいんだと、まわりの大人にはわかる。めちゃくちゃかわいいし微笑ましい。
だけど……。
奏はハンカチで涙を拭くまねをした。
わたしは制服のスカートのポケットに入っている携帯を、上から押さえた。
凜子がチャチャをいれる。
奏の言葉に猛烈な反論をする。
でも本人が全く意に介さないから、わたしなんかが文句をつける筋合いじゃないのだ。
さっきは計算だなんて言ったけど、宇城くんのパスまわしや指示は意表をつくことが多くて、確かにその瞬間その瞬間に頭の中でとっさに生まれる戦法、いやもう本能みたいに見えることがある。
だから野性の勘が鋭すぎて強い、手ごわい、って褒め言葉で校内からも校外からもそう呼ばれているのだ。
野獣っていかにも野蛮そうで、個人的にはあんまり好きな通り名じゃないけど。
だいたいわたしが苦労して入ったこの日向坂高校は、一応世間の評価では進学校だ。宇城くんだって補欠とはいえ立派に入試を突破しているわけで……。
わたしはそっと横を向いた。
奏が嬉しそうにまとめた。
大喜びする奏と凜子を眺めながら、複雑な気持ちになる。
とくに多田山くんのことが気になっているらしい奏にとっては、三泊四日もこんな素敵な別荘で一緒に過ごせるなんて、夢のようなんだろう。進展するといいな。
複雑なわりにはわたしも充分ウキウキしているか。
例えばきっと、奏が多田山くんに惹かれていなくたって、結局わたしは自分の欲望に負けてこの旅行をOKしてしまったような気がする。奏のせいにするなんてよくない。
でも奏は未来があっていいな。好かれる可能性があっていいな。
奏も凜子も、宇城くんがわたしを気に入っている、なんてお気楽な勘違いをしている。そんなわけはないのだ。
かっこいいけど変わり過ぎている。彼氏としちゃありえない。
そんな声はどうでもよかった。宇城くんはわたしにとって絶対的なヒーローだった。
でも入学してから偶然知ってしまった事実がある。
宇城くんがわたしをからかったりちょっかいを出したりするのは、別に好きだからだというわけじゃないのだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。