わたしは目をみはった。
勇気? 感動? わたしが人にそんなものを与えたりできるの?
でもそうだ。わたしの今日の行動に一番驚いているのは、まぎれもない自分自身。
わたしのどこにこんな勇気が眠っていたのかと仰天している。わたしって、もしかしてやればできる子?
引っ込み思案なわたしは自分に自信が持てない。
運動神経もよくないから、小学生の頃は鬼ごっこで延々鬼だったり、ドッジボールですぐ当たってチームメイト、特に男子に舌打ちされたりしていた。
失敗すると赤面しちゃうのを笑われるだけじゃすまない。小学生はまだ男子のほうが幼くて、その場の感情に支配されがちだった。口汚く攻め立てるのは男子が多い。
それもわたしが男子を苦手になってしまった理由のひとつだ。
そういう男子との間に仁王立ちし、突き飛ばす勢いでわたしを守ってくれていたのが女の子である奏。幼稚園に入る前から現在に至るまでのわたしの親友だ。
小さい頃から頼りになるのは男子じゃなくて、正義感の強い女の子の友だちだと刷り込まれてきたところがある。
でも今日、わたしは困っているこの男の子を助けようとした。男子だったのに! なぜか!
その結果、この男の子から勇気があるとか感動した、なんて言われたことで、自分をまるごと肯定してもらえたような錯覚におちいっている。
男子を、今までとは違う生きものだと認識した瞬間だったのかもしれない。
歩く廊下の色さえ違って見えた。中学の廊下よりも大学のものは白っぽくて明るいけど、そこじゃないんだ。
もしかして男子苦手症候群を、わたしはちょっとだけ克服した?
人の引けた空間を二人、並んで歩いた。
名前も知らないこの子は着崩した学ランに、甘さを残すシャープな横顔が絵になる。日に焼けすぎていることに目をつぶれば、タレント事務所の筆頭若手俳優だと言われても納得しちゃうレベルだ。
それにしても……。わたしがこんなに勇気を出したのは小学校五年のあの時以来。相手はあの時と同じように男子。
なけなしの自信と奮い立たせた勇気を全否定され、わたしの小さな世界を根底からひっくり返す結果になってしまったあの四年前の出来事を思い出す。
あれから、子供心に身の程知らずな行動は決してすまいと誓った。いろんな要因で男子が苦手だ。
でもできれば避けて通りたいとまで萎縮してしまったのは、確実にあの時からだ。
でもでも。今、わたしが勇気を出したことを、同じ男子であるこの子が認めてくれた。なんだかとても不思議だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。