凜子がため息混じりに長い髪をかき上げる。バスケ部に出る時のツインテも好きだけど、さらさらの黒髪は凜子に似合っている。ちなみに奏はバスケをやる時はポニテだ。
宇城くんの情報になると耳の通り道が倍くらいの太さになる。
知らずに詰め寄っていたらしい奏からわずかに距離をとった。
宇城くんはここ日向坂高校に補欠で入学している。そんなこと黙っていればわからないのに、真正直に口にするからいつの間にかみんなが知っている。
たまらずにわたしは先をせかした。
わたしはさっと両手を下ろした。不覚! 気づかなかった。
なるほど。日本では常識というものも重視される。ユーモアがある、じゃ片づけられないこともあって宇城くんの型破りは特に女子には受けていない。
最初は外見が突出してよかったことで女子にキャーキャー騒がれていた。それが引き潮のようにさーっと後退していった。
一挙に学年中に認知されたのが、一年の初めの頃にあったオリエンテーション合宿だ。
参加前に男子同士でした何かの賭けに負けた宇城くんは、私服が全部、ネクタイつきのスーツだった。クラス対抗のレクリエーションリレーはビジネスシューズで走った。
いくら約束とはいえ、まさか本当に実行するとは! ふざけて賭けをした友だち含め、みんながみんな、唖然としてしまった。
宇城くんは人と感覚がズレすぎているために、男子の仲間内でもいじられキャラ的な部分がある。なのに、そもそものスペックが高いことと、本人が“動じない気にしない”を徹底しているから、かえって一目置かれ、軽く見られることはない。
非常に不思議な存在だ。
手の中の携帯に視線を落とす。画像フォルダの中には、送られてきた宇城くんの自撮り写真。
そりゃ確かに宇城くんがやれば、タレントの写真集と同レベルの出来にはなる。逆にだからこそ、ネタにはなれない。
いくら芸能人なみにかっこいいとはいえ、彼はあくまで一般人。男子が自撮りってだけで女子は若干引くのに、こんなタレントばりのポーズで写真を撮るなんて!
人目にさらせば自分大好きナルシストが確定で、女子は間違いなく超ドン引きだ。
まあ奏と凜子が、これを人にふれまわることは絶対にない。
でももし他の女子が知ったら「見て騒ぐのはいいけど彼氏としては、ちょっとごめんなさいだわ」と敬遠される。
……わたし以外は、さ。
まさか自分が再びこういう感情を持つようになるとは思わなかったよ。
宇城くんがからかうために送ってきて、女子はドン引きするようなこの写真の束が、わたしには宝物になっている。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。