第8話

2.自由の国から来た王子-4
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2018/09/21 03:03
吉住 凜子
吉住 凜子
ほんとに宇城もねー、もったいないっちゃもったいないよね。あれだけイケメンなのにどうしてこうも常識に欠けるのか
凜子がため息混じりに長い髪をかき上げる。バスケ部に出る時のツインテも好きだけど、さらさらの黒髪は凜子に似合っている。ちなみに奏はバスケをやる時はポニテだ。
前原 奏
前原 奏
あたしちょっと多田山から聞いたことあるよ。あいつ宇城とめっちゃ仲いいじゃん?
島本 波菜
島本 波菜
うんうん、なに? 奏
宇城くんの情報になると耳の通り道が倍くらいの太さになる。
前原 奏
前原 奏
ちょっと波菜、そんなにギラついた目で迫らないでよ。キャラが変わってるって
島本 波菜
島本 波菜
そ……そんなことはななな、ないけど
知らずに詰め寄っていたらしい奏からわずかに距離をとった。
前原 奏
前原 奏
宇城の家ってすごい金持ちじゃん? 宇城、中学に入るまではアメリカで育ってるらしいんだよね
吉住 凜子
吉住 凜子
あー、だから数学も国語もできないのに英語だけできるわけね
前原 奏
前原 奏
それよ、凜子。英語がなかったらうちの高校は無理だったでしょうね
宇城くんはここ日向坂高校に補欠で入学している。そんなこと黙っていればわからないのに、真正直に口にするからいつの間にかみんなが知っている。
島本 波菜
島本 波菜
それで? どうしてアメリカで育つと問題なの?
たまらずにわたしは先をせかした。
前原 奏
前原 奏
アメリカは移民の国だから、いろんな人種がいて考え方も個々に違ってもなんの問題もないみたいだよ? 人とズレてる宇城の考え方も個性だとか自由な発想ってことになってプラスに働くんでしょ
島本 波菜
島本 波菜
そうかー
前原 奏
前原 奏
波菜うっとりしすぎ! その、顎の下で手を組んで上向くお祈りみたいなポーズやめなって
島本 波菜
島本 波菜
えっ? そんなつもりはぜんぜん……
わたしはさっと両手を下ろした。不覚! 気づかなかった。
前原 奏
前原 奏
そこが日本ではちょっと問題でしょ? 宇城はともかく親はかなり心配してるみたいよ。多感な時期をアメリカで過ごしたことによって、宇城の個性豊かすぎる本質が満開になっちゃったとかって
なるほど。日本では常識というものも重視される。ユーモアがある、じゃ片づけられないこともあって宇城くんの型破りは特に女子には受けていない。

最初は外見が突出してよかったことで女子にキャーキャー騒がれていた。それが引き潮のようにさーっと後退していった。

一挙に学年中に認知されたのが、一年の初めの頃にあったオリエンテーション合宿だ。

参加前に男子同士でした何かの賭けに負けた宇城くんは、私服が全部、ネクタイつきのスーツだった。クラス対抗のレクリエーションリレーはビジネスシューズで走った。

いくら約束とはいえ、まさか本当に実行するとは! ふざけて賭けをした友だち含め、みんながみんな、唖然としてしまった。

宇城くんは人と感覚がズレすぎているために、男子の仲間内でもいじられキャラ的な部分がある。なのに、そもそものスペックが高いことと、本人が“動じない気にしない”を徹底しているから、かえって一目置かれ、軽く見られることはない。

非常に不思議な存在だ。
前原 奏
前原 奏
アメリカか。でも確かにこれじゃーな
手の中の携帯に視線を落とす。画像フォルダの中には、送られてきた宇城くんの自撮り写真。

そりゃ確かに宇城くんがやれば、タレントの写真集と同レベルの出来にはなる。逆にだからこそ、ネタにはなれない。

いくら芸能人なみにかっこいいとはいえ、彼はあくまで一般人。男子が自撮りってだけで女子は若干引くのに、こんなタレントばりのポーズで写真を撮るなんて!

人目にさらせば自分大好きナルシストが確定で、女子は間違いなく超ドン引きだ。

まあ奏と凜子が、これを人にふれまわることは絶対にない。

でももし他の女子が知ったら「見て騒ぐのはいいけど彼氏としては、ちょっとごめんなさいだわ」と敬遠される。
……わたし以外は、さ。
まさか自分が再びこういう感情を持つようになるとは思わなかったよ。

宇城くんがからかうために送ってきて、女子はドン引きするようなこの写真の束が、わたしには宝物になっている。

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