今日から私、月野楓は、星森学園の一年生になる。
豪奢な正門。それを彩る花びら。
その全てが新入生の私たちを祝福しているようで、私は期待に胸を躍らせた。
校舎までの長い道のりで、在校生たちが快くお祝いの言葉を向けてくれた。
この人たちじゃない。
きっと、この人たちは良い環境で育って、優しい性格をしているのだ。
じゃなかったら私にこんな屈託のない笑みを浮かべないだろう。
私は鞄からカバーで包まれた本を取り出した。
私は人目もはばからずに本を抱きしめ、叫び声を上げた。
あまりの尊さに息を荒げる。
そう、私は、真人さまみたいな人を探していた。
私は真人さまみたいな人に……。
星森学園は私立校で、設備も整っていて、校舎内もとっても綺麗で豪華な学校。
外観も内装もどこかの洋館みたいで、お姫様になれた気分。
それから校則もほとんど自由。
そして何より制服が抜群に可愛い。
セーラー服と似ていて、オリーブ色の襟とスカート、ブレザーは金色のボタンでダブルタイプに留められている。
スカートの裾にはレースが付けられていて、お嬢様みたい。
私はこの制服が着たくてこの学園を受験した、といっても過言ではない。
私は窓に映る自分の姿を見ながら、くるりと一回転した。
スカートがふわふわ舞う。
可愛いなぁ、この制服。
と、自分の制服姿ににやにやしていると――。
誰かの言葉に後ろを振り返ると、生徒はみんな上を見上げていた。
私もつられて見上げると、学校に飾られていた大きな看板が、強風にあおられて落ちてくるのが見えた。
しかもそれは、確実に私の方に落ちてきて。
私の身体は震えてしまって、その場から離れたいのに動けない。
思わず目を瞑った。
どうしよう、下敷きになっちゃう……!
そのとき、誰かにぐいっと肩を抱かれた。
ガタン! と看板が落ちる音が聞こえる。
痛みがない。
ゆっくりと目を開けると……。
目の前に、端正な顔立ちの男の子がいた。
凛とした声が、耳元で響く。
あまりの至近距離に私はうろたえる。
まっすぐに私を見つめる彼の瞳は、黒くて大きい。
黒髪はさらさらで、太陽に反射して艶やかにきらめいている。
まつげも長くて、うらやましいなぁ。
私の肩には、彼の手が添えられていた。
そっか、この人が私を助けてくれたんだ……。
彼の手から、温もりが伝わってくる。
私の肩を抱く手は意外と力強くて、大きい。
しばらく私は、胸を高鳴らせながら、彼の温かさを感じていた。
桐ケ谷くんと呼ばれた彼は、先生に言葉をかけられ、私から手を離した。
私に向けてふっと笑ったあと、そのまま歩いていってしまう。
今度会ったら「助けてくれて、ありがとうございます」って言わなきゃ。
違う……!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。