髪を巻いた綺麗な先生に促されて体育館に入った。
体育館といっても、普通の学校のものより二倍は広く、良い香りがした。
入学式が始まり、退屈な話を散々聞いて眠くなってきてしまい、あくびをかみ殺す。
と、その時……。
凛とした声が、後ろから聞こえた。
コツコツとローファーを響かせ、舞台に上がった生徒会長は……。
さっき私を助けてくれた、男の子だった。
あの人、生徒会長だったんだ……。
すらりと長い手足に、さらさらの黒髪。
ここにいる男子とは違う、きらめいた雰囲気。
在校生たちから黄色い歓声が上がっていた。
桐ケ谷先輩は、女の子から人気があるのかな。
その一方で、揶揄を入れる男子たち。
桐ケ谷先輩はその男子たちをちらりと見て、微笑みながらマイクに口を近づけた。
男子が舌打ちをして黙る。
桐ケ谷先輩は一度咳払いをして、姿勢を正して前を向いた。
笑顔で話す生徒会長、桐ケ谷先輩の言葉は、緊張している私たち新入生を安心させるものばかりだった。
この透き通るような、聞いていて心地良い声。
私は眠くならずに、じっと桐ケ谷先輩の話を聞いていた。
私はそれを聞いた瞬間、目を見開いた。
優しさは、人の心を強くする。
お母さんの言葉がよみがえる。
もうこの世にはいない、お母さんが私に何度も言ってくれた言葉。
それと似たようなことを、桐ケ谷先輩は言ってくれた。
きっと桐ケ谷先輩は、お母さんのように優しくて、包容力がある人なんだ。
呟いたあと、不意に桐ケ谷先輩と目が合った、気がした。
思わず硬直してしまう私。
すると……。
先輩が、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。
その笑みは、美しくて、優しくて、かっこよくて。
先輩はすぐに前を向いてしまったけれど、私は先輩から視線を逸らせなかった。
やっぱりこういう人が女子の理想なんだろうなぁ。
みんな、こういう人を好きになるんだろう。
私が求めてるのは、魂が叫ぶように欲してるのは、あの意地悪な、真人様……。
入学式が終わった後、私は真っ先に桐ケ谷先輩を探した。
朝助けてくれた、お礼を言いたいのだ。
辺りを見回して探していると、さらさらの黒髪がちらりと見えた。
間違いない、桐ケ谷先輩だ。
桐ケ谷先輩は体育館の裏の方へと行ってしまう。
私は声をかけようとして、すぐに物陰に隠れた。
なぜなら……。
桐ケ谷先輩の向こう側に、スタイルの良い可愛い女の子がいたからだ。
様子をこっそりうかがうと、女の子はもじもじと落ち着きなく身体を動かしている。
これは間違いなく、告白現場……。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。