第2話

生徒会長の言葉
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2018/10/31 13:37
先生
「新入生のみなさんは、こちらの体育館に集まって下さい」
 髪を巻いた綺麗な先生に促されて体育館に入った。

 体育館といっても、普通の学校のものより二倍は広く、良い香りがした。



 入学式が始まり、退屈な話を散々聞いて眠くなってきてしまい、あくびをかみ殺す。
 と、その時……。

生徒
「次に、生徒会長からの言葉。桐ケ谷渉さん」
桐ケ谷渉
「――はい」
 凛とした声が、後ろから聞こえた。
 コツコツとローファーを響かせ、舞台に上がった生徒会長は……。
月野楓
「あ……」
 さっき私を助けてくれた、男の子だった。
 あの人、生徒会長だったんだ……。
 すらりと長い手足に、さらさらの黒髪。
 ここにいる男子とは違う、きらめいた雰囲気。
生徒
「渉さま~!」
「今日もかっこいい……!」
 在校生たちから黄色い歓声が上がっていた。
 桐ケ谷先輩は、女の子から人気があるのかな。
生徒
「女子に人気の渉さーん! 今日も生真面目でかっこいいですね」
「ネクタイもぴっしり」
 その一方で、揶揄やゆを入れる男子たち。
 桐ケ谷先輩はその男子たちをちらりと見て、微笑みながらマイクに口を近づけた。
桐ケ谷渉
「そちらの方こそ、風紀委員に怒られそうなネクタイの付け方していますね。学校でみんなをその付け方にしたいのであれば、生徒会に申し出てみてはいかがですか?」
生徒
「くっ……」
 男子が舌打ちをして黙る。
 桐ケ谷先輩は一度咳払いをして、姿勢を正して前を向いた。
桐ケ谷渉
「新入生のみなさん、入学おめでとうございます。在校生を代表して、生徒会長、桐ケ谷渉が歓迎の意を表したいと思います。この学校、星森学園は……」
 笑顔で話す生徒会長、桐ケ谷先輩の言葉は、緊張している私たち新入生を安心させるものばかりだった。
 この透き通るような、聞いていて心地良い声。
 私は眠くならずに、じっと桐ケ谷先輩の話を聞いていた。
桐ケ谷渉
「僕がこの学校で伝えたいのは、優しさは、人の心を強くする、ということです」

 私はそれを聞いた瞬間、目を見開いた。

 優しさは、人の心を強くする。

 お母さんの言葉がよみがえる。
楓の母
『誰にでも優しく接するんだよ。そうすれば、自分に良いことが返ってくるから』
桐ケ谷渉
「厳しくすれば強くなるものではありません。優しさこそが、人の成長につながります。この学校の生徒たちは、誰もが優しい人ばかりです。新入生のみなさんも、どうか先輩方を嫌わずに、受け入れていただければと……」
 もうこの世にはいない、お母さんが私に何度も言ってくれた言葉。

 それと似たようなことを、桐ケ谷先輩は言ってくれた。

 きっと桐ケ谷先輩は、お母さんのように優しくて、包容力がある人なんだ。
月野楓
「だから、女の子から好かれるのかぁ……」
 呟いたあと、不意に桐ケ谷先輩と目が合った、気がした。

 思わず硬直してしまう私。
 すると……。




 先輩が、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。
月野楓
「……っ」
 その笑みは、美しくて、優しくて、かっこよくて。
 先輩はすぐに前を向いてしまったけれど、私は先輩から視線を逸らせなかった。

 やっぱりこういう人が女子の理想なんだろうなぁ。
 みんな、こういう人を好きになるんだろう。
月野楓
「……でも違う」
 私が求めてるのは、魂が叫ぶように欲してるのは、あの意地悪な、真人様……。






 入学式が終わった後、私は真っ先に桐ケ谷先輩を探した。
 朝助けてくれた、お礼を言いたいのだ。

 辺りを見回して探していると、さらさらの黒髪がちらりと見えた。
 間違いない、桐ケ谷先輩だ。

 桐ケ谷先輩は体育館の裏の方へと行ってしまう。
月野楓
「桐ケ谷せんぱ……」
 私は声をかけようとして、すぐに物陰に隠れた。
 なぜなら……。
生徒
「こんなところに急に呼び出してしまって、すみません」
桐ケ谷渉
「大丈夫だよ。話って、なにかな? 生徒会のこと?」

 桐ケ谷先輩の向こう側に、スタイルの良い可愛い女の子がいたからだ。

 様子をこっそりうかがうと、女の子はもじもじと落ち着きなく身体を動かしている。



 これは間違いなく、告白現場……。

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