昼からの授業が始まったけど、私は午前中にもまして上の空だった。
折坂くんの言ったことを、ノートに書いてまとめてみる。
何だかよくわからないけど……。
折坂くんの言うことが正しいんだとしたら、折坂くんの意識がない時に私は、彼に告白された…って、こと?
それって夢遊病とか……多重人格ってことに、なるんだろうか?
でもじゃあ、私に告白したのは一体誰ってことになるの?
折坂くんであって、折坂くんではなくて──。
そもそも一体、何の目的があって私に告白なんかしたんだろう……。
この数日でハゲるくらいに色々考えすぎて、私の頭は爆発寸前だった。
持っていたシャーペンでノートの1ページをぐしゃぐしゃと塗りつぶし、ガバッとその上に顔を突っ伏す。
……どうしよう。
多分、次の中間試験、私きっとボロボロだ……。
教室の前で私を待っていた折坂くんが、ドアから出てきた私に向かってそう聞いてきた。
薄暗くなり始めた廊下を、私達はどちらからともなく屋上へ向かって歩き始める。
苦笑しながら言う私に、折坂くんはどこか物言いたげな視線と相槌を投げてよこした。
だけどそれ以上は何も言わず、無言で私の前を歩いて階段を上り始める。
扉を開けると、サアッと冷たい風が目の前の折坂くんの襟足を揺らせた。
昼間はポカポカと暖かかったけど、さすがにこの時間は少し肌寒い。
一昨日と同じように遠くからヒグラシの声と、吹奏楽部の練習の音が聞こえてくる。
当然だけどこんな時間屋上には誰もいなくて、私と折坂くん二人だけの影が地面に長く伸びていた。
金網に指を引っ掛けて、折坂くんはそこから見えるグラウンドを見下ろしながら、おもむろに口を開いた。
私はハッとその後ろ姿を見つめる。
くるりと体をこちらに向き直らせ、折坂くんはガシャッと金網に背中を預けた。
こちらを向いた顔は、やっぱりどこか不安そうに見える。
私は首を傾げながら、あの日のことをぼんやりと思い返した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。