廊下の方向に向いていた体をこちらに向けながら、折坂くんはどこか警戒するような声色でそう聞いてきた。
夕陽に赤く焼ける彼の顔が真っ直ぐにこちらを向いて、私の胸はドキッと大きく弾む。
うわ、ヤバい……。
とっさに呼び止めてしまった……。
どう切り出そうかと、思わず彼から目を逸らして指をもじもじさせる。
どうしよう……。
今の私の正直な気持ち、そのまま折坂くんに伝えてみようか。
付き合うとかはまだ全然考えられないけど、友達から始めてみたい…って。
意を決して、キッと顔を上げる。
目が合った瞬間、折坂くんはハッキリと大きく目を見張った。
途切れがちに紡いでいた言葉を食い気味に遮られて、私はとっさに口を噤んだ。
折坂くんの顔が心なしか険しくなっているような気がして、私はドキリとする。
よほど驚いたのか、彼の瞳は激しく揺れていた。
問われて、私はぼんやりと折坂くんの顔を見つめ返した。
若干声には動揺が滲んでいたけど、折坂くんはハッキリとそう言った。
何を言っているのかわからなくて、私はただただ折坂くんの口元を見つめる。
……え、だって。
昨日、折坂くん。
私のこと好きだ……って。
言ってくれたよね?
なのに、なんで?
なんで今日は、知らないなんて言うの……?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!