──そんな風に、なんとか気持ちを切り替えようとしていた矢先の、昼休みだった。
亜美と向かい合ってお弁当を食べていた私の横に、スッと人が立った。
不意に机の上に影が出来て、びっくりした私はお箸をくわえたままその影の主を見上げる。
それが折坂くんだとわかった瞬間、私はぐっと喉を詰まらせてしまった。
気を抜いていたところだったので、不意打ちの折坂くんの登場に全身の毛穴が一気に開く。
私だけでなく、向かい合って座っていた亜美までが、びっくりしたように折坂くんを見上げていた。
どこか遠慮がちに、折坂くんはそう切り出した。
昨日のことがあったから、私はとっさに身構えてしまう。
探るように聞き返すと、私の警戒心が伝わったのか折坂くんは少し困ったように頭を搔いた。
慌てて私はガタッと立ち上がる。
昨日の話をこの場でされるのはマズイと思い、私は思わず折坂くんの手首を強く摑んだ。
啞然としている亜美に声をかける余裕もなく、私は折坂くんの腕をグイグイと引いて、そのまま教室を後にした。
二人きりで話をする場所がすぐには思い付かず、結局私達はその足で屋上へと向かった。
夏が終わって気候がよく、屋上でお弁当を広げている生徒が多くて内心で私は舌打ちをする。
それでも、タンク裏の日陰になっている場所には誰もいなかったので、自然と私達の足はそちらへ向いた。
金網に指を引っ掛けながら、私はハアッと大きな溜息をついた。
奇しくもここは、一昨日折坂くんに告白された場所。(私の記憶では)
あの日は鮮やかな夕焼け空だったけど、今は爽やかな秋晴れの、抜けるような青空だった。
背後に立っていた折坂くんに声をかけられて、私はビクッと体を揺らせた。
おそるおそる、振り返る。
彼の顔を見た瞬間、昨日の冷めた目を思い出して、私の心臓はきゅうって縮むような感覚を覚えた。
怯えながら尋ねると、折坂くんは軽く瞳をさ迷わせた。
少し何かを考え込んだ後、凜と顔を上げる。
その顔は一昨日とも昨日とも違った表情で、何故だか胸がドキッと弾んだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!