第2話

1.告白
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2018/08/01 01:41
高校一年生最終日。
みんなにとっては修了式に出て通知表をもらうだけの日なのかもしれない。
でも、私にとっては違う。
今日は、十六年の人生のなかで最も勇気を振りしぼる日。
生まれてはじめて好きになった人に……想いを伝えると決めた日なんだ。
昨日、片想いの相手である、同じクラスの西内蓮くんに【話したいことがあるので、放課後屋上に来てください】とメッセージを送った。
西内くんからはすぐに【わかった】と短い返信が届いた。
スマホで連絡を取ったのは昨日が初めて。
ただでさえ緊張するのに、内容が内容なだけに送信するまで何時間もかかった。
すぐに連絡がきてうれしかったけど、一言だけのメッセージに胸がチクリと痛んだ。
桜井心春
桜井心春
めんどくさいと思ってるのかなぁ。いや、でももともとそういう人かもしれないし……
屋上で西内くんを待っている時間は落ち着かなくて、独り言をつぶやいたり、うろうろ歩き回ったりしていた。
女子から〝クールな王子様〟と呼ばれている西内くん、本当に来てくれるのかな。
来てくれなかったらどうしよう。
いっそ、ドタキャンされたほうが楽なのかもしれない。
ふられたらもう生きていけないかも。
自分で告白すると決めたくせに、いざこの日を迎えると怖くて覚悟がゆらいでしまう。
進級して違うクラスになって、接点がなくなってしまうことが嫌だった。
西内くんに新しい出会いがあって、彼女ができるかもしれないと思うと怖かった。
何も行動できないまま失恋するよりも、きちんと自分の気持ちを伝えて失恋したほうがずっといい。
悩んで悩んで、そう決意したはずなのに。
桜井心春
桜井心春
やっぱ無理だよぉ。逃げ出したいよぉ……
半泣きになりながら、カーディガンのポケットからスマホを取り出してアプリを開く。
昨日メッセージを送ったのはぜんぶ夢でした、なんてバカな期待をしたけれど、西内くんとのトーク履歴はばっちり残ってた。
深いため息をつきながら未読のメッセージを確認する。
賀上千秋
賀上千秋
【心春、頑張って! 気合だよ、気合! あたしは教室で待ってるからね】
同じクラスで一番の友達、賀上千秋ちゃんからのエールを見て少し元気になった。
千秋ちゃんは最初の席替えで前後の席だったという縁で仲良くなった。
性格や趣味はあまり似ていないのになぜか気が合って一緒にいる。
西内くんのことも親身になって話を聞いてくれたな。
〝持つべきものは友〟って言葉が身にしみるよ。
桜井心春
桜井心春
【ありがとう、気持ち伝えてくるね!】
千秋ちゃんに返事を送ったタイミングでよろけてしまうほどの風が吹いた。
もう三月なのに、まだまだ風は冬仕様。
ブレザーの下にセーターを着て正解だった。
……って、今はそんなことどうでもいい。
強い風のせいで背中まである髪はぐっちゃぐっちゃだよ。
桜井心春
桜井心春
もう、せっかく朝から頑張ったのに、これじゃ台無し……
スマホの内カメラを起動させて髪を直していたとき、ギギギ、と鉄の扉の開く音がした。

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