第6話

2.強烈な転校生-2
3,262
2018/08/01 01:42
──しばらく窓ぎわで千秋ちゃんとおしゃべりしていると、教室の前方から、
小泉亜子
体育館シューズにはきかえて、出席番号順に廊下に並んでください
と涼しい声で呼びかけられた。
振り向くと、教卓の前には英語の小泉亜子先生が立っていた。
先生は二十代前半くらいの若い先生で、小柄で童顔のせいかいまだに未成年と間違えられるらしい。
優しくて話しやすいから、生徒に大人気である。
先生は怒るけど、みんなは彼女を〝アコちゃん先生〟と呼んでいる。
賀上千秋
賀上千秋
あたしたちも並ぼうか
桜井心春
桜井心春
そうだね
体育館シューズにはきかえて廊下に出ようとしたとき、ようやく登校してきた西内くんとはち合わせした。
桜井心春
桜井心春
あっ……
ふいに会ったものだから、心の準備ができていなくて〝おはよう〟すら言えなかった。
ずっと会いたいと思っていたのに、いざ本人を目の前にするとどうしたらいいかわからなくなる。
そんな私をフォローするように、千秋ちゃんが西内くんに話しかけた。
賀上千秋
賀上千秋
おっ西内じゃん、おはよ!
西内蓮
西内蓮
おはよう。朝から元気だな……
西内くんは眠そうにあくびをしている。
朝が苦手なのだろうか。
賀上千秋
賀上千秋
また同じクラスだね。一年間よろしくー
西内蓮
西内蓮
ああ、よろしく。……桜井も
西内くんは、ずっとモジモジしている私に笑いかけてくれた。
約二週間ぶりに間近でみる、西内くんの笑顔。
ふだんあまり笑わないから、破壊力がハンパない……!
キラキラ眩しすぎて、思わず倒れてしまいそうだったけど、ぐっとこらえた。
桜井心春
桜井心春
うん、よろしくね
ちょっとした短い会話だったけど、それだけでもう胸がいっぱいになった。
心臓がずっとバクバクしてる。
告白してますます気持ちが高まっているみたい。
こんなんで、これからうまく付き合っていけるのだろうか。
今だって、千秋ちゃんがいたからなんとか話すことができたのに。
桜井心春
桜井心春
普通に話せてうらやましいなぁ
廊下を歩きながら独り言のようにつぶやくと、千秋ちゃんは私の背中をぽんと叩いた。
賀上千秋
賀上千秋
あたしはただ、三次元に興味ないだけだよ。なぜか、みんなアイツの前ではちぢこまっちゃうんだよねー
千秋ちゃんの言う通り、西内くんと緊張せずに話せる女子はあまりいない。それこそ、一年のときは千秋ちゃんくらいしかいなかった。
西内くんが女子にあまり話しかけないのもあるけど、理由は別にある。
彼はイケメンというだけでなく、文武両道の完ぺきな男の子だ。
テストではいつも学年トップクラスだし、スポーツは何をやらせても活躍する。クラスの中心にいるようなタイプじゃないけど、西内くんには圧倒的な存在感があった。
特に女子はアイドルのようにあがめている人が多かった。
私は口数が少ないところ、どこか大人びた雰囲気が少し怖いなって思ってた。
そんな彼が優しい人だと知ったあの日、恋に落ちて……。
それからは意識してますます話しかけられなくなった。
自分でもよく告白できたなと思う。
みんな、西内くんと私が付き合っていると知ったらどんな反応するだろう。平凡でこれといった長所もない私なんかが彼女で、納得いかないって文句言われるのかな。
彼女になれたし、たまには二人でお弁当を食べたり一緒に帰ったりしたいけど、あまり目立たないほうがいいのかな。
──お付き合いの仕方をもんもんと考えているうちに始業式が終わり、体育館から教室へと戻った。

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