「あっ」
ガンッ、とボールがリングに当たり、全く別方向へ弾き出される。
女子バスケ部一年、高崎(たかさき)光(ひかり)。最近絶不調です……。
「もー……なんで入んないの」
ため息をつきながらボールを拾いに行く。
その時、ボールが目の前で誰かの手によって拾われた。
顔を上げれば――。
「朝早くから自主練か。いいことだ」
「……二宮(にのみや)先輩」
少し微笑む先輩は、ん、と私にボールを差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます」
あまり話したことがないため、緊張しつつボールに手を伸ばす。すると、触れるまであと数ミリというところでボールが遠のき、私の手はスカッと空を切った。
体が前のめりになり、慌てて体勢を立て直す。そんな私を見て、先輩がフッと笑った……気がした。
いや、見間違いかもしれない。先輩はそういう、人を笑うようなことしないし……。多分。あれ、でも先輩がさっき私からボールを遠ざけた……よね?
「高崎」
「は、はい」
二宮先輩がわずかに口角を上げて言った。
「お前、今日部活終わったら居残りな」
…………え。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。