第5話

練習のあとは
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2018/05/28 11:42
しばらく時間が経ち、隣のコートでシューティングしていた男バスのキャプテンが、私たちに声をかけた。

「そろそろ体育館閉めるぞー」

「了解でーす。高崎、終わりだ。よく頑張ったな」

「あ、はい、ありがとうございました!」

頭を下げると、二宮先輩はわずかに口角を緩めた。

笑い返し、片付けに行こうとしたところを呼び止められる。

「あ、高崎。このあとまだ時間大丈夫か?」

「え?はい、大丈夫ですが……9時までなら」

「なら、ちょっとコンビニ付き合ってくれねぇ?」

二宮先輩がにこ、と笑った。



□■□



高校から徒歩1分の場所にあるコンビニ。

そこに入るやいなや、二宮先輩が尋ねてきた。

「お前って何が好き?」

「はい?」

私はほとんど無意識に聞き返していた。

何が好きって何?どういうこと?

「何かあるだろ、アイスとか飲み物とかお菓子とかで」

「えっと……チョコミント系のアイスが好きです」

「ん、了解」

スタスタとどこかへ歩き出す先輩。

とりあえずついていくと、たどり着いたのはアイスコーナーだった。

先輩はたくさんのアイスの中から右手でチョコミント味のカップアイスを取り、左手でバニラ味のカップアイスを取り出した。

……えっ、まさか……。


なんと、そのまさかだった。


「ん」

会計を終えた二宮先輩が、私にチョコミント味のカップアイスを差し出してくれる。

……お、奢らせてしまった……!!

「い、いいですいいです、そんな、奢ってもらうなんて」

「じゃあ俺に食べろって?俺これもあんだぞ。腹壊させる気か」

二宮先輩がさっき一緒に買っていたバニラ味のカップアイスを見せてくる。

「そんなことは……」

「ならもらっとけ。好きなんだろ」

そう言われてしまっては、断りの台詞が思いつかない。

果てしない罪悪感を感じながら、私は「ありがとうございます……」と先輩からアイスとアイススプーンを受け取った。

「あぁ」

先輩が満足そうに笑った。

ドキン、と心臓が高鳴り、誤魔化すように私はアイスの蓋を外してアイススプーンで食べ始めた。

空腹なこともあってか、予想外の美味しさに思わず先輩を見上げた。

「先輩!美味しいです!」

「よかったな」

優しく笑いかけてくれる。

その笑顔が、何故か、とても好きだと思った。

別に……ただの“先輩”なのに。

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