体育倉庫の扉を閉めた俺は、体育館を出て男バスの部室へ真っ直ぐ進んだ。
――その途中で、方向転換してグラウンドの水飲み場に向かった。
水飲み場の縁に腰掛けて、さっきの出来事を思い返す。
……高崎、告られてたな……。河野(かわの)いい奴だし、よかったじゃん。
そう思うのに……。
『やっぱ引っかかるんだよなー!本当お前、面白いわ』
なんで俺はあの時、あんな「高崎のこと分かってますアピール」したんだ?
高崎が河野と付き合っても、俺は祝福する気でいるはず……だろ?
ん?今のも曖昧だな……でもなんか、なんとなく「祝福する」って言い切れねぇ。
祝いたい気持ちはある……と思うのに……。
「……あー、なんなんだ自分」
マジでわかんねぇわ。
原田にでも聞いてみるか……いや、あいつはどうせ恋だの好きだのしか言わねぇな。時間の無駄だ。
不意に顔を赤くして向き合う高崎と河野が脳裏にフラッシュバックして、またもやもやした変なものを胸に感じた。
……帰って寝るか。起きたら、この変なやつの正体も分かるかもしれねぇ。
俺は考えることを放棄して、部室へ歩き出した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!