これは、夢ではない。
アリスが人を殺せば、その事実も残る。
それでもアリスは、物語を終わらせたくなかった。
どうしてだろう。
アリスの中の「何か」がアリスに『物語の未完結』を
求めていた。
アリスは本を閉じた。
そして、頬についた血を払ってこう言った。
いくら膨大な数の『犠牲』が出ようとも、私は
物語を終わらせたりしない。
アリスはそう決意した。
『犠牲』
それは、アリスの足を進める一筋の道。
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耳に残る悲鳴。
思考を遮る悲鳴。
心を揺さぶる悲鳴。
アリスを躊躇わす悲鳴。
「不思議の国のアリス」の登場人物達を、アリスは
殺していく。
分厚い本にも、トランプ兵のイラストが溜まってきた。
その時、アリスの背後から
「ヴァァァ!!」
という叫びとともにトランプ兵が襲いかかってきた。
グサッ
アリスは剣でトランプ兵を刺した。
トランプ兵から流れ出す血しぶきの音を、アリスは
後ろを振り返らずに聞いた。
再び本を確認すると、16体目のトランプ兵のイラストが
現れた。
アリスは本を閉じ、立ち上がった。
辺りは見渡す限りの薔薇の垣根。
ちょうど見えるか見えないかの距離に、城が見えた。
アリスは足を進める。
1歩。
もう1歩。
躊躇うことは許されなかった。
立ち止まることも許されなかった。
殺さなければ、殺されるだけだから。
アリスは『物語の未完結』の為に、
『犠牲』という道を歩み続けなければならない____。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。