グレーテルは母と父の亡骸を見た。
何回も、凶器で突き刺された両親の亡骸を。
グレーテルはコウから受けった武器をまじまじと見つめた。
白を基調に、柄の根元には可愛らしい輪っかのついた、
すてきな剣。
兄様に見せたら喜んでくれるだろうか。
兄様は昔から兵士になりたいと言っていたもの。
はあ…
と溜息をついたコウは、分厚い本を取り出して
グレーテルに渡した。
表紙には、『Hansel and Gretel』と書かれていた。
聞いてられない、という顔をしてコウは消えた。
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透明なガラスの箱に兄の首を入れ、グレーテルは
椅子に座っていた。
作ったケーキを抉った母と父の目で飾り、
テーブルにはバラバラにした両親の体を置き、
グレーテルはその虚ろな目で兄を見つめていた。
グレーテルは家を出た。
家の前には暗い森が広がっている。
森の奥には、民家の灯りが見えた。
グレーテルは笑顔で箱の中の兄に話しかけた。
もちろん、返事は無い。
知らずか、グレーテルは話し続ける。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!