そもそもいつまでも金剛地先輩と話せないのは問題だ。
納豆同好会参謀部という名の退路も断たれたけれど、幸い伊織の気迫に金剛地先輩がうろたえている。
私。私がここで頑張らないと。
伊織だって金剛地先輩だって当たり前のように勇気を出して自分のことを喋っているんだ。
それを私だけがなんともしょっぱい理由で避け続けるのはあまりにも情けない。……情けない。
金剛地先輩の本気の心配が、私の口先の語彙力をいたぶる!
こんな時に人を本気で心配するなんていう珍しい面を見せつけないでください!素敵すぎるんですよ!
伊織が青い顔をしている。金剛地先輩は不思議そうに私を覗き込む。
たぶん、私も青い顔をしている。金剛地先輩を見て、なんとか言葉をひねり出したらこうなった。
……反省している、ものすごく反省している。
金剛地先輩は学生鞄からラフランス納豆を取り出し、私の前に差しだした。
金剛地先輩の行動が、出会った瞬間の衝撃を想起させる。
だめだめ、しっかりして私。いつまでも同じことを繰り返してどうするの?
殺されたって生き返ればいい。何度でも、何度でも。
グッときつく拳を握りしめる。
伊織の目が私を観察して、動揺する。
見てて伊織。私は間抜けだけど、腑抜けは卒業してやる。
言ったそばから間抜け!どもった、間が変、しまいに噛んだ!
とはいえ、初めて金剛地先輩の前でまともなことが言えた!やった!
金剛地先輩、さっき伊織が暴走したときみたいに気勢をそがれてる。
ごめんなさい、金剛地先輩からしても変な子ですよね、私。
でも、変な子でも頑張ったんです。精一杯でこれなんです。
伊織は私から目をそらした。なんとなく、機嫌が悪いって顔をしている、ような気がする。
光を消したペンライトを握って、ぼんやりと金剛地先輩に視線を向けている。
金剛地先輩は一声一挙手一投足が様になるから、私の語彙力をガンガン殺す。
その度に私はよみがえって、どもったり噛んだり意味不明なことを言ったりする。
そうして慣れていくしかない。
伊織の視線が射貫くようなものに変わった。
え?ええっと、なにか恐ろしいものでも見つけました?金剛地先輩の背後に幽霊とか?
声に熱がない。不機嫌だ。どう考えても背後に幽霊を見たとかそんな感じじゃない。
……どうしたんだろ?
伊織の視線は怖いけれど、拒否するのも気まずいので受け取っておく。
金剛地先輩の美には勢いで対処することができた。
その代わりに様子のおかしい伊織になんて声をかければいいのかわからなくなった。
あちらを立てればこちらが立たずってヤツなの?ど、どうすればいいんだろ……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!