私はどうだろう。
金剛地先輩のやり方が気にくわない、と伊織みたいにはっきり言えるほど強い否定の感情もない。
けれど進路や未来を勝手に決められるのはちょっと困る。
私がどっちつかずな考えをこねくり回している間にも、対立構造が出来上がっていく。
私はどうしたいだろう。何になりたいという希望もなく進学し、直近の夢だったリア充高校生活は二日で諦めた。
伊織にさっくり説得されてオタクの自分を取り戻した、そんな私がやりたいこと……!
我が目を疑った。我が指を疑った。しかし我が心は疑えなかった。
リア充の道を捨てオタクに返り咲いた今の私にある直近の夢なんて、そんなもんだ。
しかしそれを正直に書いた上、送信までしてしまった我が指だけは本気で恨む。
伊織は私の真意を察したみたいだ。……本当にごめんね!
金剛地先輩はたぶん言葉の意味すらわかっていない。……本当にごめんなさい!
今の私にできることは嘘を交えた謝罪しかない。
我ながら恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。穴を掘ろう。埋まろう。せめて良い肥料になれるといいな!
どうやら金剛地先輩に呆れられてしまったようだ。
呆れるような相手にも納豆知識の伝授を忘れないあたり、金剛地先輩もよくわからない人だ。
……思い返したら元からよくわからない人だった。
× × ×
超絶リア充美少女妹と鉢合わせないために音速で夕食を終えた。
私は骨と皮を突き破って飛び出しそうな心臓を抑えながら部屋でスマホを確認した。自分が原因とはいえめっちゃ怖い。
金剛地先輩、納豆以外は何考えてるかわかんないし。
金剛地先輩からよりはマシかな、ハハハ。
……どう考えても怒られるよね、これ。仕方がないので電話をかける。せめて第一声から怒鳴られるとかはありませんように!!!
で、ですよねー。ほんっとうに申し訳ない!返す言葉もございません。
私、誰か違う人に電話してない?でもスマホから響く声は確かに伊織のもので。
もしかして今、寝ちゃってるのかな?夢見てるのかな私?
今の言葉で確信した。私を私で良いと言ってくれるなら、これは現実の伊織だ。
あれ?私はナチュラルに伊織陣営の頭数に数えられている?
で、ですよねー。これは金剛地先輩と戦わないといけないのかな。
そもそも何で戦うのか、さっぱり解らないんだけど。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!