デート的なものとは?なんぞ?
聞き間違いじゃないかな?伊織とはオタイベに一緒に行くことはごくまれにあったし、それを中学の頃とかにからかわれたこともあったけど、私も伊織もオタイベに一人で行くのがつらいからってだけだったし。
今更デート的なものって、ねぇ?なに?なんなの?
私の二次元最推し、今まで名前を封じていたけれど、もう限界だ。
金髪碧眼で冷川大輔さんボイスの夏焼奏くん!通称カナ!
憂鬱で悲しげでくっそネガティブなクセに一途で決して諦めないその姿勢にときめきしかない!!
私は崩壊した。
騒ぎを聞きつけた先生や生徒がやってきたが、私はもう止まれなかった。
何かを推すってそういうものだ。ゆうか。
……泣いてなんかないです。
× × ×
私はヒグラシではない。でももうそれしか言えない。っていうかそれしかない。
学校でもさんざん暴れてしまったし、もう引き返せない。カナ……。
ありがとう伊織。君は天使カナ?
そんなことを考えながらベッドに倒れ込む。はぁ、もう最高カナ?
× × ×
明日は土曜。土曜が過ぎれば日曜。日曜が来ればカナとのデート(的なもの)。
伊織が一心不乱にペンライトを振っている。こないだまでペンラのペの字も消えてたのに、日曜に向けた練習カナ?
さっ、最高!伊織最高カナ?私も練習しようカナ?
ごめんなさい金剛地先輩!チケットは二枚しかないんです!
そもそもこれは納豆同好会の活動じゃないから金剛地先輩には必要ないカナ?
でも、なんかそれは寂しい気もする。紆余曲折あったけど、一緒の同好会で活動してるしなぁ……。
金剛地先輩もなんだかんだ私には気を遣ってくれてる……ような気がするし、ちょっと申し訳ない気分にもなる。カナ。
金剛地先輩はそう言って、納豆のキャラクターが描かれた分厚いパンフレットを私たちに見せた。
ざっと見積もって、国語の教科書の3倍くらいの分厚さだ。そんなに書くことあるのか。
金剛地先輩の前では相変わらず緊張して口先の語彙力がだめになる。
結果バカみたいな言葉遣いで誘うことになってしまったけれど、金剛地先輩は瞳を輝かせて私と伊織にパンフレットを差しだした。
うおっ!眩しすぎるカナ!
伊織はペンライトの素振りをやめ、むっとしながらパンフレットを受け取っている。
……やっぱり伊織、納豆同好会嫌なんだろうな。
じゃあ、なんで入ったんだろ。
× × ×
伊織曰く、私はパンフレットを読んでいる途中に寝てしまって、金剛地先輩は急にバイトが入ったため、帰ってしまったらしい。
金剛地先輩がいないというのに、なんだか伊織の声の機嫌が悪い。声が思いっきり震えてる。なんだろ?
× × ×
そしてライブ当日、待ち合わせ場所で待っていると。
全身茶色もとい納豆色の服装の金剛地先輩が苦々しい表情で現れた。
……どういうことなの?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。