ドアを開けた大輝が見たのは、振り付けの確認をしている真奈と菜美だった。気がついた真奈がCDを止める。
詫びる真奈に大輝は構いませんよ、と答えドアの近くに立つ。
諦めたような口調で尋ねる菜美に
大輝ははっきりと答える。密かに後をつけて、あとでお咎めを受けるよりはずっとましだ。
挑戦的に言う菜美を、真奈が咎めるように見た。
大輝が提案し、菜美は少し驚いた顔で大輝を見つめる。普段の顔が無駄にチャラい田村は信じられないということか。まあ地毛は茶色いし肌も浅黒い、さらに割と童顔という3点セットの持ち主の彼だ。誠実さが外見に表れないのは彼の欠点なのかもしれない。
しばらくの沈黙の後、真奈が唐突に言った。いいんですか? と尋ねる大輝に菜美は
と答えた。
やがて田村が帰ってきて、すぐに菜美とともに出て行った。
因みにコンビニのカメラには、10時4分に出て行く真奈が映っていた。さらに店員の1人は真奈の顔を覚えていて、9時前からコンビニの前で誰かと電話していたことを証言した。コンビニからここまで徒歩で10分ほどかかることを踏まえると、真奈のアリバイは完璧である。
──怪しいのは笹野 菜美か……。
考えながら大輝はあることに気がついた。暖房が付いていないのである。その割に部屋は暖かく、現に今まで付いていないことに気がついていなかった。
そのことを真奈に伝えると、真奈は慌ててエアコンのスイッチを入れる。本人も気がついていなかったようで、不思議そうな顔をしていた。
それからしばらくして突然、真奈が大輝に声をかけた。
大輝は振り返る。他の人ではダメなのか、と聞くと真奈は首を振った。
仕方なく大輝は雪の中、真奈とともに外に出る。行き先を告げず、真奈は大輝の隣を歩いた。おかげで大輝は、道を間違えるたびに真奈に引っ張られることになる。
10分も歩いただろうか、辿り着いたのは公園だった。真奈は大きな木の裏に大輝を案内する。そこにあったものを見て、大輝は言葉を失った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。