第8話

届けたくない。
320
2019/01/20 14:17
朝。

学校の昇降口で、恵麻が靴箱を見ながら
突っ立っていた。
鯨野 碧衣
鯨野 碧衣
おはよー。どうしたの?
私がそう言って話しかけると恵麻は、肩を
「ビクッ」と震わせた。
保坂 恵麻
保坂 恵麻
あ!ううん。何でもない!
恵麻はそう言って、靴箱の扉を「バタン!」と
勢い良く閉めた。
鯨野 碧衣
鯨野 碧衣
そ、そう...
保坂 恵麻
保坂 恵麻
ほら!早く教室という名の監獄へ
行くよー。
鯨野 碧衣
鯨野 碧衣
監獄って何だよ...
良かった。いつもの恵麻だ。

私はそう思って、視線を下に落とした。


















突然、私の視界に入った物。





















信じられなかった。




















恵麻の上履きが、凄く汚かった。

落書きもされている。






















“バカ”

“シネ”

“クズ”




どれも、傷付く言葉だった。




















鯨野 碧衣
鯨野 碧衣
恵麻...!
保坂 恵麻
保坂 恵麻
ん?あぁ、これか。
保坂 恵麻
保坂 恵麻
多分、寝ぼけてたんだよ。私。
鯨野 碧衣
鯨野 碧衣
...え?
保坂 恵麻
保坂 恵麻
寝ぼけて書いちゃったんだよ。
きっと。
恵麻はそう言って笑った。

まるで、何もないかのように。


完璧だった。


本当に、そう思わせるような笑顔だった。

完璧な、笑顔だった。
保坂 恵麻
保坂 恵麻
ってことは置いといて。
保坂 恵麻
保坂 恵麻
今週の花火大会、一緒に行かない?
恵麻はそう言ってまた、あの完璧な笑顔を
浮かべた。
鯨野 碧衣
鯨野 碧衣
う、うん...
これじゃ、何て反応したら良いか
分からないじゃん。
保坂 恵麻
保坂 恵麻
やったー。碧衣を勧誘できたー。
鯨野 碧衣
鯨野 碧衣
あ、あはは...



















どうしよう。























─────────────────────────────────





















周りから、笑い声が聞こえる。

醜い、醜い、笑い声。


私の机に、落書きがされていた。

どれも、傷付く言葉だった。
鯨野 碧衣
鯨野 碧衣
どうしたの?
保坂 恵麻
保坂 恵麻
どうもしないよ。
私はそう言って笑う。

こう見えて、演技は得意なんだ。


心から笑っているような、そんな顔をする。

そんなの、簡単じゃない。


口角を上げて、少しだけ首を傾け、目を細める。






















ほら。簡単だよ。





















─────────────────────────────────





















クラスメイト
あはは!
クラスメイト
ざまぁ見ろ!
クラスメイトはそう言って、ボロボロの私を
嘲笑った。
九条 愛里
九条 愛里
あはは!たのしー!
九条愛里。

昨日、この学校に転校してきた転校生。

クラスメイトにどうやって取り入ったか知らない
けど、私はこいつのせいでこんな
ボロボロになった。



















放課後、私は碧衣に嘘を付き先に帰らせ、
私の上履きや机に落書きした人物を探した。


その結果がこれ。
クラスメイト
あはは!
クラスメイトはそう言って、私を蹴る。
保坂 恵麻
保坂 恵麻
...
九条 愛里
九条 愛里
ねぇ、痛い?
九条 愛里
九条 愛里
痛いでしょ。痛いよねぇ。
九条はそう言って、笑った。

意味が分からない。
九条 愛里
九条 愛里
何とか言えよっ!
九条はそう言って、私を蹴る。
保坂 恵麻
保坂 恵麻
何とか言えよって言われてもなぁ...
私はそう言って笑う。
九条 愛里
九条 愛里
な、何こいつ...
保坂 恵麻
保坂 恵麻
何?笑ってるの怖い?
保坂 恵麻
保坂 恵麻
そうだよね。
保坂 恵麻
保坂 恵麻
怖いでしょ。怖いよねぇ。
私はそう言って、さっきの九条みたいに
笑いかける。
九条 愛里
九条 愛里
うるさい!
殴られた。

ねぇ、私、笑ってるけど、痛いんだよ?
クラスメイト
愛里ちゃん!これ!
クラスメイトがそう言って九条に渡した物は、
カッターナイフだった。
九条 愛里
九条 愛里
おお。良いの持ってんじゃん。
“良いの”って...

黒いなぁ...
九条 愛里
九条 愛里
んじゃ、さっそく♪
九条はそう言って、カッターナイフを降り下ろす。






















あーあ。痛いだろうな。

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