私は、鯨野碧衣。高校1年生。
目付きが悪いとよく言われる。そして学校では
「雪女」と噂されている。「鯨野の目を見たら
凍る」という噂がその噂を作ったのだろう。
今私は、学校の裏庭の草むしりをしている。
朝、ちょっとしたトラブルで
遅刻してしまったのだ。
それで罰として草むしり。
噂のせいか、一緒に草むしりをしてくれる
友達もおらず、この状況になっている。
早く終わらせて、家に帰ろう...
この人は、クラスメイトの鮫島梓。
社交的で成績優秀。おまけに、運動神経がいい。
性格も面白くてしっかりしていて優しい。
だから、女子、男子、先生問わず人気が高い。
とっさに顔を隠す。笑ったのはいつぶりだろうか。
不思議。鮫島君といると楽しい。
なんのことだろう。私には今朝、
笑った覚えがない。
私が遅刻した理由。登校中に、お婆さんが
倒れているのを見つけて、病院まで送ってあげた
のだけど...
気づかなかった。あのとき、
鮫島君が近くにいたなんて。
鮫島君はそう言って、にっこり笑った。
また、とっさに顔を隠す。
ありがとうと言われるのはいつぶりだろう。
こんなに楽しいのはいつぶりだろう。
私は呟く。こちらこそ、
今の私の気持ち、あなたに届いていますか?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。