「目を覚ましてっ…」
陽向…
「…さっきの…マジ?」
聞き覚えのある声が優しく降ってくる。
あたしはガバッと体を起こし、陽向の顔を覗いた。
陽向は目を開けてあたしに微笑んだ。
「ひっ…なたっ…!」
よかっ…
「泣いてんの?
大袈裟だな…」
「だって…」
陽向は手を伸ばしてあたしの涙を拭った。
「ごめん、あたしのせいで…」
あたしはまたその手に触れる。
「あなた、怪我は…?」
「ないよ…腕の骨折だけ。」
「そっか、それなら良かった…」
そう言ってまた笑う陽向。
陽向…
「あなた、好きだよ。」
っ…
「あなたは?」
こんなに失いたくないと思ったのは、陽向だけだ。
ちゃんと、言わなきゃ。
「あたしも…
陽向が好き…」
今までずっと、前に進めなかった。
怖がってばかりいた。
こんなにも幸せなことがあるなんて知らなかった。
「あなた、オレの彼女になってください。」
“カノジョ”という響きに若干違和感を覚える。
「あたし男っぽいし、ガサツだし、迷惑いっぱいかけてるし、彼女らしいこと出来るかわかんないよ?」
こんなあたしが陽向と付き合っていいのか。
「いーよ。
迷惑かけるなんて、お互い様じゃん。
オレは、あなたと付き合いたい。」
陽向の言葉一つ一つに涙が零れる。
…あたし、こんなに涙もろかったっけ…?
「オレこそ、今こんなにだせぇカッコだけど、オレでいーの?」
「ダサくなんかねぇよ!
陽向はあたしのこと守ってくれた…
カッコイーよ」
こんな男子に囲まれた生活の中で、あたしはコイツを…陽向を選んだんだ。
「良かった…
あなた」
ガラガラッ
陽向が名前を呼んだ瞬間、勢いよく病室の扉が開き、一人の女性が入ってきた。
「陽向!」
「あ、かーさんだ。」
「え。」
陽向のお母さんは陽向が目を覚ましたのを見るやいなや、先生を呼びに行かなくちゃ、と出ていった。
2人で顔を見合わせて笑う。
「今いい感じだったのに〜…」
「あたし達らしーじゃんっ」
「ったく、母さんのやつ…」
はぁ、とため息をこぼす。
そして一呼吸置いてあたしを呼んだ。
「オレと付き合ってください。」
「はいっ」
幸せだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!