第30話

トラウマ
733
2019/01/05 04:50
「…なんて、言うと思った?」


「…え?」


笑顔のままのAくんに戸惑いを隠せないあたし。


脳の理解が追いついてない。


「どう…いうこと…?」


「言葉のまんまだよ?」


さっきから同じ顔。


笑顔が怖い。


「好きって、言ってくれたのに…?」


「嘘に決まってんじゃん。」


めんどくさいと言わんばかりにため息をつくAくん。


「Aくんは…

あたしのこと好きじゃないの…?」


さっきまで弾んでいた胸の鼓動が急に重くなった。


「当たり前じゃん。

誰がお前のこと好きになるんだよ」


え…?


ハッと嘲笑うAくん。


「だいたいさぁ…

キモイんだよ、その服。」


「…え?」


「フリフリしてさぁ、どこのお嬢様だよっ

ほかのヤツら見てみろよ。

お前、明らかに違うぜ。」


服…?


あたしは俯く。


目頭が熱くなって地面に雫が落ちる。


Aくんが…そんなふうに思ってたなんて…


「髪の毛もさぁー、高いとこで二つ結びって…

何歳だよ。

もう俺ら、6年なんだけど。」


「ひどい…」


「何言ってんの、親切じゃん。

せっかく教えてやってんだから。」


次々に言葉の矢をあたしに放つ。


痛いよ…


やめてよ…


もう言わないで…


その言葉すら出てこない。


「高貴ぶっててウザいし。

もう二度とオレに話しかけんなよ。」


そう言葉を残してAくんは去っていった。


「うわぁぁぁぁぁん!!」


Aくんが角を曲がって見えなくなった瞬間、あたしは泣き崩れた。


どうして…


どうしてあんなに酷いこと…


振るだけならまだ良かった…


なんであんなに…


あたしを否定するの…?


あたしって…気持ち悪いの…?





家に帰ってから少し冷静になったあたしは考えた。


よかったじゃん、と。


あんなヤツと付き合わなくて、と。


あたしがバカだった、と。


気にすることは無い、みんなは受け入れてくれる。


そう思っていた。


だけど、あたしは甘かった。


次の日、学校に行くとみんなの視線が明らかに違った。


いつも話してた子達も、あたしを避けるようになった。


そしてあたしに話しかけるのをそれぞれが譲り合っていた。


お前がいけよ、早く言えよ、と。


そしてある男の子が言った。


「まだ直してねぇのかよ、昨日Aに言われただろ。

キモイんだよそのカッコ。

このクラスの全員が前から思ってたことだからな。」


目の前が真っ暗になった。


Aくんはあたしが告白したことをみんなにバラしたんだ。


そしてクラスのみんなはあたしの味方じゃなかった。


それから卒業まで、あたしは無視され続け、いわゆる“イジメ”を受けていた。


小学校卒業と同時にあたしは引っ越した。


だからあのころのことを知っている人は近くに一人もいない。


あたしは心に決めた。


もう恋なんてしない。


女の子らしい格好もやめる。


そしてこの嫌な思い出に蓋をした。

プリ小説オーディオドラマ