「…なんだよそれっ」
はは、と笑いをこぼす陽向。
「だってだって、1週間も話さなかったんだぞ!?」
あたしは少々興奮気味で言った。
こんなに普通に話せるのに、なんで今まで話しかけられなかったんだろう。
そんなふうに不思議に思うくらい、あたしたちの会話は自然だった。
「でも、なんで1週間も話さなかったんだろうな。」
空を仰ぎながら陽向が言う。
「なんか、一旦話さなくなると話しかけ方忘れるよな。」
今度は私に向き直って言った。
「あたしも同じこと考えてた!!」
そっか、陽向もそうだったんだ…!
「あたし、嫌われたかと思ってたよ。」
「えっ、なんでオレがあなたのこと嫌わなきゃいけねぇんだよ」
「だって、この前、陽向のこと無視みたいなことしちゃったし。」
あれが原因だよな…。
「いや、そんなこと言ったら元はオレがメイクのことをからかったから…あ。」
触れてはいけない部分に触れてしまったと言わんばかりに口を覆う。
「もーいいよ、気にしてない。
元々嫌だったし。」
…多分。
元々メイクなんて興味なかったわけだし。
教室を出てくなんてあたしがおかしかったんだ。
「あのさ、その事なんだけど…」
「もー、いいっていいって!
蒸し返すな、な?」
そう言いながら陽向の肩をポンポンと叩いた。
陽向は顔を少し曇らせている。
もー…メイクの話はいいんだよっ
多少虚しさがこみ上げてくるし…!
「だから、オレは…」
「つーわけでこの話はチャラっ!」
2人の言葉が重なり、陽向が何を言いかけたのか、あたしは分からなかった。
あたしがキョトンとした顔で陽向を見ていると陽向はふっと笑った。
「じゃあもう気まずくならないように毎日話してないとダメだな…」
つられてあたしも笑顔になる。
「そーだなっ!」
「じゃー仲直り!」
「まぁ仲直りっていうのも変な感じだけど!」
「ん」
2人で拳を突き合わせる。
ニカッと笑う陽向を久しぶりに見た気がした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!