やったー、と言いながら凛が元いた場所に駆けていく。
「え、いーのか?」
あたしは自転車を脇に寄せて止めている陽向に言った。
「え?
あぁ、別に大丈夫。」
「でも、買い物の途中なんじゃ…」
「ちょっとぐらいいいって。
幸い、買ったの冷てぇもんばっかだしな。」
「でも…」
寒いし、風邪とかひかれたら…
「ほんとに、いーんだよ。
…それに、」
「?」
「あとであなたに温けぇコーヒー奢ってもらうから大丈夫。」
「はっ!?」
あたし今金持ってねぇー…!
「ちょっと、財布取ってくるわ…」
あたしがそう言いながら公園を出ようとすると、ぐっとフードを掴まれた。
「ぐぇっ」
おかげで変な声が出た。
ははっ、と笑って陽向が言う。
「アホかっ、冗談だわ。」
「えっ…」
「凛ー、遊ぶって何すんだー?」
あたしが固まっている中、そう言いながら陽向は凛の方に歩いて行った。
あたしもその後を追う。
なんか、とてつもなく申し訳ない。
「雪だるま!」
「雪だるま!?
それにしちゃ雪すくねぇぞ!?」
「あのねぇ、これ!
ちっちゃいの作るの!」
凛があたしの手を指す。
「あぁ、これか!
さっきから『あなたずっとなに持ってんのかなー』って思ってた。」
まぁ、今はただの雪玉だからな…
「でもこれ、顔ついてなくね?」
あたしの手から半雪だるまを取って言う。
「あーおねぇちゃんと同じこと言ってるー!
今から目探すの!
陽向くんも探してー!」
「あいよっ」
陽向はしゃがんで凛と一緒に地面を掘り始めた。
…陽向って若干クールだし、からかってくるし、子供なんて苦手そうなのに、意外と面倒みいいよな…
カシャ。
2人の遊んでいる写真を少し離れたところから撮った。
いい笑顔してんなー…
あとで凛に見せたら絶対喜ぶだろーな。
「できたな!」
「うん!出来た!
おねえーちゃん出来たよぉー!」
凛はあたしの元まで走ってきて手を掴んで引っ張った。
「わぁっ!?」
「こっちこっち!
じゃぁーん!」
花壇の縁に並べられた3つの雪だるま。
「こっちが陽向くんでー、真ん中が凛でー、これがお姉ちゃん!」
「おぉ、すげーじゃん!
え、なんかあたしの不細工!」
2人の雪だるまは大きな目と笑った口なのに、なんであたしのだけ目が小さくて太眉なんだっ!!
「それねぇ、陽向くんがやったんだよぉ」
「ちょー似てるじゃんっ」
「ふっざけんなっ!」
目が完全に笑ってんだよっ!
あたしは陽向に向かって走り出した。
そして逃げる陽向、さらにそれを追う凛。
いつの間にか追いかけっこだ。
「はっくしゅんっ」
やべ、薄着でゆきん中走り回って…風邪ひきそ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!