「あー…」
結局あたしは授業が終わるチャイムを聞いてからトイレを出た。
いや、どんだけ長いトイレだよ。
1時間いるとか過去最高記録だわ。
「おいっ、花園!
お前どこ言ってたんだ!」
とぼとぼ歩いていたらちょうど教室から出てきた数学の先生とばったり会ってしまった。
「あっ、いやあの…腹が痛くて…」
ベタな嘘だなー…と我ながら思う。
「ったく、もう大丈夫なのか?」
「あっ、はいっ。」
「都合のいい腹してんなぁ、次の授業はちゃんと出ろよ。」
「はい…」
お?
なんとか誤魔化せた?
ツイてんじゃん、あたし!
ラッキーラッキー、今日は占い1位か?
鼻歌を歌いながら重い扉を開けて教室に入る。
「あれー?戻ってんじゃん。」
入ってすぐの机の前でその席の持ち主である松島誠司と戯れている佐伯が言う。
「あぁ、まーな。」
ま、ジャージ取りに行くのが面倒くさくて下はタイツのままだけど。
「ちぇー、可愛かったのに、なぁ?」
佐伯が松島に同意を求めると、うんっ可愛いかったよ、と無邪気な笑顔をこちらに向けてきた。
松島が女子ならここの男誰一人ほっとく奴はいないだろうってほど、男のくせに可愛い。
そんな可愛い松島にまで「可愛い」と言われたら悪い気もしないが、落としてしまったんだから仕方ない。
「いーの、そもそも自分からやったんじゃないし!」
可愛い可愛い言われすぎて今日頭おかしくなりそう。
「てか、オレがノート見せてやった時はいたのに授業始まったらいねぇんだもん、どこいってた?」
「急に腹が痛くなってきてよっ、まぁ、もう大丈夫なんだけど。」
もう全員に腹が痛くなったっていう言い訳で通そ。
「おー、大丈夫なら良かったわ。」
「あれ、あなたいんじゃん。」
陽向の声が背後から聞こえた。
…あれ…?
さっきのことがあってか、陽向の方を振り向けない。
メイクが似合ってないと言われ、案外ショックだったらしいことが体に現れているのか…。
「おい、無視かよ。」
そう言ってあたしの顔をのぞき込む陽向。
「あなた、メイク落としたの?」
意外そうな顔をして陽向が言う。
「あぁ…まぁ、なんつーか、目とか口とか気持ち悪くて…」
なんで言い訳してんだあたし。
「ふぅん、なに、オレに似合ってないって言われたから?」
「はぁっ!?
聞いてた?あたしの話。」
ムカつく奴っ。
別に陽向に言われたからじゃないわっ!
「あ、ねぇ佐伯、この前ゲームから離れてるって話してたけど…」
もうこれ以上は陽向と話したくなくて話をそらす。
陽向が入ってこれないような、ゲームの話。
あたし達が話し始めると、陽向は自分の席へ戻って行った。
あれ…機嫌損ねた?
まぁでも、あたしは悪くないし…
うん。
そう自分に言い聞かせた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。