第2話

<プロローグ>
1,341
2018/10/26 05:00
寝る前に星を眺めるのが、テレサは大好きだった。
城のバルコニーに出ると、今夜も星が瞬いている。
三ヶ月前、憧れの日本へ留学が決まったと乳母のレイチェルと親友のアレクに告げた時も、同じようにここから星を見上げていた。
テレサ
テレサ
春になったら、私、『れいん坊将軍』の国に行ってきます!
レイチェルは突然のことに驚いていたが、珍しく真面目な顔になり、静かに告げた。
レイチェル
留学おめでとうございます、テレサ様。日本では、これまでとは違う、色んな事を経験なさるでしょう
テレサ
テレサ
色んな事……?
少し不安になって見返すと、レイチェルはいつもの笑顔に戻って頷いた。
レイチェル
でも大丈夫。どんな時でも、どこにいても、道に迷った時は北極星を見上げてください
それは彼女の口癖で、昔から幾度となく聞かされたお守りのような言葉だった。
テレサ
テレサ
いつでも私達を導いてくれる、幸運の印よね
続きを引き取ったテレサは、微笑んで星を見上げた。
そして月日は流れ、明日はいよいよ旅立ちの日だ。
憧れの日本はどんな所かしら、とテレサは胸を躍らせて、自然と笑みがこぼれてくる。
きっと自分のことは誰も知らないし、普通の女の子の生活ができるはず。
大好きな『れいん坊将軍』の舞台も見にいけるだろう。
しかし、この留学は、ゆくゆくはラルセンブルクの女王、テレサ・ドゥ・ラルセンブルクとして生きていくために必要な経験を積むためのものである。
浮かれたことばかり考えてはダメだと思い直し、緩んだ口元をきりりと引き締め直した。
そこへ柔らかな風が吹いてきて──
金色の美しい長い髪が、ふわりと揺れる。
冬が長いラルセンブルクにも、ようやく春が訪れたと実感できる心地よい風だった。
テレサの緊張もふっと和んで、星へと語りかけた。
テレサ
テレサ
でもやっぱり、すごく楽しみ。行って来ます
翡翠のように澄んだ美しい瞳は、夜空の光を受けてきらきら輝いていた。

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