第8話

<第一章>-6
222
2018/11/02 01:25
気が付いてそちらを見ると、またしても、あの黒髪の少年が立っていた。
テレサ
テレサ
あ……
と驚くテレサに、
少年
少年
どこに行くんだ?
と彼は尋ねた。
偶然、道路の向かいから全てを目撃してしまった少年は、そのまま知らんぷりもできず、声をかけたのだ。
テレサもこう何度も顔を合わせていると、少年に親しみを覚えて、笑顔になって答えた。
テレサ
テレサ
それは……銀座、だと思います
しかし、正直に告げると、少年は、眉間に軽く皺を寄せて聞いてくる。
少年
少年
思いますって……?
テレサ
テレサ
それが、連れに全部任せていたので……。あは。ダメですね、こんなことじゃ……
我ながら情けなくなって思わず苦笑すると、タイミング悪く、お腹もグ~っと鳴ってしまう。
恥ずかしくて赤面していると、また白い猫が心配そうに見上げてくるので、安心させようと微笑む。
テレサ
テレサ
だ、大丈夫だよ
少年
少年
どう見ても、大丈夫じゃないだろ
思わず、少年は突っ込んでしまった。そして、こう続けた。
少年
少年
行こう。うちのじっちゃんの店、すぐそこだから
テレサの脳裏に、アレクの言葉──知らない人についていかないでください──が蘇り、一瞬、戸惑う。その気持ちを察したように、少年は少し困ったように告げる。
少年
少年
このまま、ほっとけないだろ
驚いて目を瞠るテレサ。
その言葉は、大好きな『れいん坊将軍』で聞いた台詞とそっくりだった!
雨に濡れながら猫を抱いた娘に、傘を差しだした将軍が、間違いなく、こう言ったのだ。
少年
少年
このまま、ほっとくわけにはいかぬであろう。親切は、黙って受けとるのも礼儀だぞ
テレサは嬉しくなって、きらきらした目で少年を見つめて尋ねてみる。
テレサ
テレサ
あなたはもしや、れいん坊将軍……!?
少年
少年
違います
皆まで言う間もなく、キッパリ否定された。

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