ピアノ以外の楽器は隣の準備室に片付けられていて、響と二人っきりを意識してしまい落ち着かない。周りをきょろきょろ見回す。
あらためて聞かれ、ごくっとつばを飲みこんだ。
私は肩を落とした。
後悔でへこんでいると、頭の上に優しい声が降ってきた。
メガネ越しに見る響の瞳に、胸がぎゅっとなる。
スカートのポケットからスマホを取り出し、震える手で響に差し出した。
嬉しくてつい笑みがこぼれる。響の番号が入ったスマホを大切に胸のところで抱きしめた。
思わずスマホを落としそうになる。
ほぼ同時に答えていた。
数分後、響は「できたよ」と言って画面を見せてくれた。
にこにこ笑顔で何度も響にお礼を言った。
ドキドキしながら再生ボタンに指を滑らせた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!