わたしが最も苦手なもの。
イケメン(三次元に限る)、ヤンキー、吠える犬。
その3つを兼ね備えているのが……
ワンコ系金髪イケメンの智也。シェアハウス到着初日にわたしに抱きついてきたやつだ。
今日なんてピアスがじゃらじゃら付いてるし、金髪だし、声が大きい。
そして、誰かれ見境なく吠えてくる。この子に「人見知り」という概念はないのだろうか。
アニメイベントが終わり、友達と夕飯を食べてから帰宅。コンビニで買ってきたアイスを食べようと、キッチンに入っただけなのに……。
キッチンの床には、インスタントラーメンの細かいくずが鳥の餌のように散らばっていた。
たしか、冬史郎さんは原稿中、千春さんは明日バイトのシフトが早くてすでに寝ているはずだ。優馬は知らないけど、もう夜遅い。シェアハウスの同居人に迷惑をかけるわけにはいかない。
だから、音が鳴る掃除機をかけるわけにもいかない。
早くアイスを食べたいわたしは、雑巾で床に落ちたラーメンくずを地道に集めはじめた。散らかした犯人である智也も、雑巾を取ってくる。
掃除もあと少しというところで、わたしと智也の頭がぶつかった。
苦手なイケメンと夜のキッチンに2人きり。そういえば、このまえ読んだ本にも似たような場面があったっけ。
ラーメンを食べたら、アイスを2人で半分こしよう。まずはそこからだ。
鍋に注ぐ水が、蛍光灯の光を受けきらきらと輝いていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!