靴が脱げたため、いつものように地面を蹴り上げることができない。
この状態で、走り切らねばならない。
こんなこと……ありえない……どうして。
昨日の夜、靴の点検は十分にしていた。
靴紐も一昨日変えたばかりだった。
コーナーを曲がる。
前を行く佐野さんがチラリとこっちを見た。
意味深な笑みを浮かべた。
まさか……。
つい先ほどの記憶が蘇る。
陸上競技場の更衣室から彼女が出てくるのを見た。
佐野さんの高校が使う更衣室は私の高校とは別だったはずだ。
不思議に感じながら、部屋へ戻るとシューズバッグのチャックが少し開いていた。
あれっと思った。
今彼女の笑った顔を見て確信した。
佐野さんが靴紐に小細工をしたのだ。
……ひどい。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。