第5話

回想1
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2018/08/13 13:05
side あなた
「おーい!!あなた帰るぞー!!!」
おそ松君が、私に大声で話し掛ける。
「今行くー!!!」
負けじと大声を出して、返答した私はスクールバッグを肩に掛け、おそ松君の元へ走った。
外のグラウンドでは、野球部やサッカー部、ハンドボール部が活動し、校舎内は、放送部や吹奏楽部が活動していた。
私達が通っていた高校は、偏差値77だった。
そんな賢い人達の中でも、群を抜いて頭が良かったのは私と幼馴染のおそ松君達だろう。
けれど、"頭が良い"からと言って"品行方正な優等生"とは限らない。
私は"品行方正な優等生"だったけれど、おそ松君達は違った。
簡単に言えば、おそ松君達は荒れていた。
"売られた喧嘩は買う。じゃないと売った奴らが可哀想だろ?"
おそ松君達は口を揃えて、そう言った。
けれど、"喧嘩は売らない"とも言っていた。
売るのも買うのも同じなのに···とあの頃の私はそう思っていた。
今だっておそ松君の右頬には赤痣がある。
定期考査前なのに、また喧嘩をしたのだろう。
「そうそう、あなた最近どうよ?」
「何の話?」
「ストーキングされてるって話。」
「ああ、それの事···。最近はないよ···。」
「なら、良いけど···。一応気を付けとけよ···。」
「何で?」
「トド松から、この前壊滅状態にした暴走族の残党が不穏な動きしてるから気を付けろって言われたんだよ···。」
「売られた喧嘩を買うから···。」
「売った方が悪ぃ。」
「···買う方も十分悪いよ。」
「じゃあ、何が"良い"んだよ?」
おそ松君のその問いは私の胸に突き刺さった。
言われてみたらそうなんだ。
"良い"とか"悪い"って基準がない。
道徳的な観点や、一般常識でしか判断出来ないんだ。
押し黙った私に、おそ松君は笑顔を向けた。
その笑顔は、幼い頃からずっと見続けて来た。
けれど、その笑顔は私には幼い頃から見続けて来たものとは、違う気がして···。
私とおそ松君達の間に"溝"が出来ている気がしたんだ···。

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