第24話

早朝が映す暖かい紅
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2018/10/04 13:49
明後日が来るのが早い。
早くも気づけばもう6月の下旬。暑いのか寒いのかまだ微妙な季節。

そんな時に、今日に文化祭を開催するのは高校の伝統なのだとか。体育祭の方が秋に開催される。暑い真夏日にされるよりだいぶと嬉しいしありがたい。


いつもより30分早く学校に来た私は、教室に荷物を置いたあと、すぐさま坂川先生の元へ向かった。

学校には生徒は誰一人としていない。
私だけが走る音が廊下に響き渡った。
今日が楽しみだった、という気持ちを踏む地面に込めて。


「先生!!」


坂川先生は廊下に置いてある花に水をあげていた。先の細いジョウロを使って、花と近い目線になれるよう、腰を低くして。


「随分と早い登校ですね。」

「文化祭…ですから。」

「楽しみにしてたんですね。」

「そりゃあもちろんですよ!」


先生はふふっと微笑んだ。そして「さ、どうぞ」と言って保健室の奥部屋へ入れてくれた。


「先生は文化祭、何もしないんですか?」

「そうですね…出し物は一通り見ていきたいです。」

「私の所にも来てくれますか?」

「そうですね、いつ頃に行くかは断言出来ませんが…」

「待ってます。」

「そんな、私を待っていては最後の文化祭がもったいないじゃないですか。」

「でも…」


先生は私の髪をとぎながら鏡を見ながら言った。


「でもじゃないですよ。ちゃんと友達とエンジョイしてきてください」

「ふふ…ありがとうございます。」


理由はない。でも自然と笑ってしまった。先生は「何を笑って…?」と言っていた。
私は「なんでもないですよ!」と答えた。
そして話を少し戻した。


「新垣先生と一緒に回ってたり…?」

「どうでしょう?『行きませんか?』と言われたら行ってるかもですね。でも言われなければ私一人だと思いますよ」

「誘ったりはしないんですね」

「そうですね。昔から一匹狼でしたから。」

「え、凄い意外です。」

「そうですか?無口で静かだったんです。ツンケンしてて愛想も悪くて、でもケンカだけは強かったものですから、狼みたいってよく言われてたんですよね」

「今とは大違いじゃないですか。」


坂川先生はウィッグを取りに行ったり、色んなブラシを取りに行ったり、部屋の中を動き回りながらお話をしてくれた。


「今でも素質は割と残ってますよ?」

「だって今そんなクールみたいなキャラじゃなくないですか。」

「じゃあ白野さんから見た私はどんなキャラなんです?」

「うーん…羊、。」

「ひ、羊ですか…笑」


何故羊かと言うと、先生の目。優しそうな目でそれでも綺麗な二重をしてる。それに声のトーンも。しっかりとした声をしているのに、眠くなってしまう優しさがある。
極めつけは喋り方。これも眠くなる。


「羊なんて初めて言われました。」

「狼な所なんて全然見られないんですもん。」

「私だってやる時はやりますから。いつか見られるといいですね、狼みたいな所。」


先生はニヤリと笑ってみせた。
それと同時に私の新たな髪が出来上がった。


「どうですか?」

「素敵です。ほんとにありがとうございます!…あ!白衣お借りしてもいいですか?」

「あぁ、分かりました。」


綺麗に畳まれた白衣を、先生が持ってきてくれた。前に借りた時よりもシワが全くない。


「ありがとうございます……ひやぁっ!?」


と言って先生から白衣を受け取ろうとした時、先生が白衣を持っているその右手を後ろに下げた。
その拍子に私は前へとこけてしまった。

だけど痛みはなかった。
目の前には先生の服。


「えっ…と…先生?」


声を掛けても先生は無言を貫いた。


「…。」


ただひたすらに時が経つ。


「…?」


持っている白衣を隣の机に置き、先生は整えたはずの私の前髪をかきあげて、そっと私の肌と先生の唇を重ねた。


「こういう狼も私の中にいることを忘れてはなりませんよ…。」


先生の体温が、それ以上の熱を放ちながら私の全身に走った。


それから先生は自分の顔を見せる事を頑なに嫌がるようにして、私の顔をくっと下げた。


下を向いているも、心臓の音は聞こえてる。


何も言わない先生。事を仕掛けたのは先生。
でも私はもう自分の気持ちに気づいている。そんな中でこのドキドキが止まるわけがなく。

先生の私服と白衣の間。
白衣がなびけば風が入ってくる。

私は先生の腰に腕を回した。
やった。やってしまった。

恥ずかしくて顔なんて上げられない。
きっと耳まで赤く染まっていることだろう。



だめだ、このままだと




離れられなくなってしまう──














小さな窓から太陽の光がさしている。
もうちらほら、生徒の声が聞こえ始めていた。

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