side:蓮理
あぁ。
キス…とか…始めてやったわ…。
俺の部屋に羽音の声が響く。
ずっと閉じ込めてきた想いが、高校3年生の今になって溢れ出した。しかも、なんの前振りもなく。
アルバムをめくった後の羽音の顔が、俺を今、暴走させたんだ。
自分で自分を制御出来なかった。
「…っはぁ…っ。」
「なんで…」
羽音が悲しそうに涙を浮かべて言う。
こいつは俺の気持ちなんて知りもしないんだろうな。
「好きだから、だけど?」
「意味が…分からない…」
「意味、分かんない?」
羽音はゆっくりと頷いた。
「あぁ、そうか。じゃあもっと言えば分かってくれる?」
俺は今、自分で何をしてるのか分からなかった。意識はある。目の前に涙を浮かべた羽音の両手首をぐっと抑えているのも、分かってる。
いい加減にしとけ、俺。
これじゃだめだ。
取り返しがつかなくなるぞ。
でも小さい頃からの、成長するに連れて大きくなっていったこの気持ちは留まることを知らなかった。
これが、本能か。
こわ。
俺は自分の唇を羽音の耳元へ近づけた。
「…なに?羽音。」
羽音は驚いたような顔をした。
「俺はお前が、羽音が好きなんだけど…?」
どれだけ言っても伝わりやしないのか?
こんなに何年も羽音のことだけを想ってきたのに。ほかのやつと付き合っても、考えるのは羽音しかいなかった。
結局俺は、お前じゃなきゃダメな弱虫なのかもしれない。
「なぁ、好き。」
耳を噛むと、少しビクッとする羽音。
可愛い…。
俺の右の手を羽音の左手首から離し、首元に持っていった。
相談聞いてもらえて嬉しくて、自分抑えられ無くなって。なにしてんだろ、俺。でも…、正直ここまでで良かった。もっと取り返しのつかないことになって…。
「…ごめん。クタクタだよな、家まで送る。」
「え…っと…。だ、大丈、夫…。今日はお母さんいるから、1人で帰る。こんな姿で蓮理といる所見られちゃ、蓮理の立場もやばいでしょ?」
「そっか。」
そういう配慮も羽音のいい所なんだよな。
まだ…俺のものにはなってくれないのかな。
もしかしたら…もうならない?
今日こうしてしまったから、もう話すこともできない?
羽音の揺れるポニーテールを眺めて思った。
自分自身、今日の俺は怖かった。
止められなかった、から。
なぁ、どこにも行かないでくれよ…。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。