第22話

悟りの深呼吸
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2018/09/20 09:31
「気持ちは落ち着きましたか?」


私はまだ先生の中にいた。
あれからかなり時間が経ったであろうに、もといた場所からは全く動いていなかった。
きっと先生は私が落ち着くまで待っていてくれたのだろう。


「すみません…。」

「大丈夫ですよ。」

「あ、あの、ウィッグ…返しに…。」

「あ…あぁ、!そうですね。」


と言ってウィッグを丁寧に取ってくれた。


「あまり深くは聞きませんが…泣くほどの何かがあるのなら、私じゃなくてもいいです。また誰かに話してくださいね。」

「ありがとうございます。」

「いえ、"生徒"の泣き顔なんて見たくありませんよ。何かは分かりませんが、早く解決できるといいですね。」


生徒…か。
いや。当然の返事だろう。先生の言う関係性になんの間違いもない。
だけれど、私には酷く寂しく思えた。


私は"生徒"、坂川先生は"先生"その立場は変わらない。

こんなに親密になってしまっても良いのか。

自分を責める一方。


凍った空気を溶かすように先生は微笑んだ。この場を和ますような、そんな笑顔で。

その笑顔に応えるようにして私も微笑み返した。けれど、その笑顔が先生の笑顔に応えられていたか…。そう言われるとわからない。

私は一つ深呼吸をついて、吹っ切れたように言った。


「それでは、また明後日にセットしてもらいに来ます!」

「はい、お待ちしてます」


悩んでいても仕方ない。

気づいてしまった気持ちにも嘘は付けない。

歯向かえないことも悟った。

それならいっそのこと前を向こうと思った。

素直になろうって。


笑顔を見せて先生に手を振った。
先生は保健室のドアまで送ってくれた。

その距離、たった8m程。その距離がいかに尊いものか、気づくのはもう少し先の話。

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