第11話

明るい保健室で
1,002
2018/08/16 05:50
side 坂川悠虎




保健室でファイルの整理をしていた。
複雑な資料が多くて、かなり苦戦している。

ちら。

ついたてがキシッと音を立てたのを聞き、反射的に音の鳴った方向を向く。


実は朝も出会っていた、。
彼女だ。ふわふわした髪は結えられていた。
体操服だった。
体育の途中だったのだろうか。
フラっと意識が飛んでいきそうだった。


「先生…?」


ビクッ。
なんなんだその可愛いと声の破壊力は…っ!!!
教師とはいえ…。
悶える…!!()


とりあえず落ち着け、、、。


「すみません、全然聞こえてなくって…」


何事もなかったかのように俺は答えた。
なにも感じてませんオーラはかもし出せているはずた。確実に。


「あの…」
「どうかしましたか?」


事情を聞くと、彼女は頭痛だったようだ。
朝、かなり考え込んでいる様子だったから、偏頭痛かと思ったが、体温をはかると微熱があった。


とりあえず…ベッド敷くかな。


ガコンッ


「痛っ。」


ベッドの端で頭をぶつけた。
痛い。これは痛い。
いや待て。痛いとかじゃない……。
チラッと後ろを向いた。

彼女は、優しい笑顔でケラケラと笑っていた。

俺は一気に恥ずかしさが増して、顔に熱が帯びたのがすごく分かった。



あぁ、調子狂う…。







彼女がベッドに寝転がって、氷枕を持っていった後、ファイルの整理をした。

資料が山のようにあり、かなり焦っている。

だが、彼女に何があったのか、気になって作業に集中出来ない。
もし重いことなら、放課後の声も聞こえ無くなるかもしれないと思うと、いてもたってもいられなくなり、気づいたら言葉が出ていた。



「何かあったんでしょう。朝も…。」


と。





彼女は「き」とだけ言って話すのを辞めてしまった。
俺は少しだけ近づいて、「き?」と聞き返した。
彼女の顔は少しずつ赤くなってゆく。それがバカみたいに可愛くて。

「キス…したこととか……あり…ま……すよね、なんかすいません。」

と、彼女は言って顔を背けてしまった。


もちろんあるはずがなく。
俺は素直に答えた。
「ありませんよ」と。だけれども彼女は信じなかった。「絶対ありますよね?」と言って。

「って…それがどうかしましたか?」

彼女はまた黙った。
顔を赤くさせたまま。
俺はなんとなく、そんな気がした。

「もしかして、それが体調崩した理由ですか。」


図星だったらしく、彼女は布団に顔をうずくめてしまった。
少しだけ、意地悪をしたくなった…。
どういう反応をするのか、少し、試しただけ。

「キスをされた、とかいう話ですかね…?」

横目でチラッと姿を見る。
変わらず、布団に顔をうずくめたままだった。




まじかよ…。




率直な感想だった。
これ以上問い詰めても彼女も困るだろうし、何より俺のメンタルがもちそうにない。


「少しいいですか」


と俺はいい、彼女の声につられたあの日の話をした。
何故か話したくなった。
誰にも伝えたことがなかった、彼女の声がこんなにも素晴らしいこと。
それは人間の本能か。
ちょっとした独占欲から伝えたくなかったんだ。


「これからも、頑張ってください。」


この一言を言った時には彼女は目を瞑っていた。





彼女の呼吸の音だけが聞こえる保健室は、俺と彼女の2人だけだった。
一瞬だけ、自分を見つめる時間だった。
自分と見つめ合い、初めて気づいた。





俺は…、彼女、白野羽音が…。












俺は













生徒に恋をしてしまった













罪な養護教諭なんだ。




















太陽の差し掛かる明るい保健室。
俺はそっと彼女の唇に近づき、1度止まってから触れた。彼女は気づくことなく、静かに寝ていた。

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