鬼が、人間を食べている。
内蔵をえぐるように。
骨をボキッと折りながら。
私は目の前の光景があまりにもおぞましく、慌てて口を
おさえた。
声でもだして、鬼に見つかったら終わりだ。
鬼の口からだらりと垂れた腕に、見覚えがあった。
赤いミサンガをつけていた、私のクラスメイト_____
そう思うと、目から涙が出てくる。
だめだ!泣くな!私!!
いくらそう自分に言い聞かせても、体は正直だ。
涙は溢れてくる。
ドサ…
ふと、鬼が体をグチャグチャにされたクラスメイトの
死体を床に置いた。
次の瞬間、鬼が私達の方を向いた。
あやが私の手をつかんで、走り出した。
私は涙を拭って、あやについていく。
少し走った所で、私は目を疑った。
数メートル先にも、鬼がいたからだ。
私達はとうとう、鬼に挟まれてしまった。
カチャ
あやがポケットからカッターを取り出した。
鬼を殺すつもりだろうか。
私はあやに言われ、近くの教室に入った。
すると…
あやの後ろにいた鬼が金棒をふった。
あやはギリギリのところで金棒をかわし、鬼の背後に
回り込むと足首をカッターで切った。
鬼の足首から血が噴き出して、鬼はその場に
倒れ込んだ。
さっきの鬼とは違い、あやと真正面に向かい合っているから
足首を切りづらいはずだ。
その時、鬼が思い切り金棒を振り上げた。
かと思うと、あやは低い姿勢になって鬼の足首を切った。
悍ましい悲鳴をあげながら、鬼は倒れた。
そう言われ、私は教室から出た。
あたりには、鬼の亡骸と夥しい量の血が
あった。
鬼の血液の性質なのか、臭いは全くしなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!