「オレ先輩みたいになりたいっす!まじ憧れっす!」
「ありがと」
片桐くん、いつも通りだ。
やっぱり昨日のは冗談だったんだなあ。なんだか残念なような、ホッとしたような気持ちになる。
「先輩」
片桐くんに顔を向けた時、ふっと視界が暗くなって、耳元で真剣な声が響いた。
「――昨日の告白、まじっすから」
……え。
片桐くんは元のように私と向き合うと、ニコッと明るく笑った。
「じゃ、お先に失礼しますー!」
軽く右手を上げて、体育館の外へ走り去っていく片桐くん。
何も言えない私の代わりに、心臓がドクドクとうるさく鳴っていた。
「なんだ、結局付き合ったの?」
「つ、付き合ってないから!」
見ていたらしい空に尋ねられ、私は食い気味に叫ぶと小走りでボールカゴを倉庫へ運んだ。
びっくりした。急にすごく近くて……びっくりした……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!