「せんぱーい!」
学校の廊下を一人で歩いている時、後ろから片桐くんの声がした。
振り返って、笑顔で走り寄ってくる片桐くんに言う。
「何?」
「あの、オレいっこ上に好きな人がいるんですけど、その人もうすぐ誕生日なんですよ!」
「おお。そうなんだ」
「はい!それで、先輩だったら何もらったら嬉しいのかなーって。好きな人と同い年だし、感覚も近いと思うんで参考に」
「なるほど……。んー、あ、シャーペン。私0.3のが壊れたから新しいの欲しくて……好きな人も、シャーペンとか文房具系ならもらったら嬉しいんじゃない?使えるし」
そう言うと、片桐くんは満面の笑みを浮かべた。
「いいっすね!ありがとうございます!ちなみに先輩はどんなの買おうと思ってるんですか?」
「どんなのかあ……青色だったらなんでもいいや。書きやすいやつかな」
「分かりました!」
「で、結局『好きな人に渡せなかったんで先輩にあげます!今日誕生日ですよね?気ぃ遣わないでもらってほしいです!』とか言われて、青いシャーペンくれたし。よく分からない子なんだよ」
「いやそれ最初からあんたにあげるつもりだったでしょ」
「それな。さりげなくあなたの好きな物聞き出そうとしたんじゃん」
「うそ」
「「マジ」」
きっぱりとハモられた。
私は反応に迷った結果、無言で椅子の背もたれに寄りかかってパックジュースを飲んだ。
桃の優しい甘さで、少し心が和らぐ。
「普通にいい子だよねー。片桐くん」
「付き合えばいいのにねー」
「ねー」
二人の会話を聞き流しつつ、私は片桐くんの顔を思い浮かべた。
……いつも笑ってる明るいあの子に好かれてるなんて、信じられないけどなあ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。