練習後、私は帰る気になれなくて、自主練を顧問に申し出て体育館に居残った。
何度かドリブルをつき、シュート打ってみるが、やはり入らない。
……最近、練習に集中できてなかったからだろうなあ。
その原因はやっぱり、多分……。
「お疲れ様です」
ドキッと心臓が跳ねる。
体育館の入口から入ってきたのは、片桐くん。
「これどうぞ」
そばにやって来て、何かを差し出してくる。
その「何か」は、私の好きな桃ジュースだった。
「……え、これ」
「先輩は桃好きだって聞きました。茜先輩から。お金はいいんで、どうぞ」
ニコッと笑いかけられる。
お金はいいって、片桐くんの奢りってことだよね……。それって先輩としてどうなんだろう。
迷いに迷い、結局後輩の好意を無駄にしまいとお礼を言ってジュースを受け取った。
一口飲むと好きな味が口内に広がり、肩の力が抜けて安心する。
「先輩、最近あんまりシュート入ってませんね。スランプですか?」
率直に聞かれ、言葉が出てこなくて息が詰まる。
弱音を人に吐くのは抵抗があった。聞いた方はきっと、かける言葉に困ってしまうだろうから。
私は桃ジュースの入ったペットボトルを持ったまま俯いた。
短い沈黙が落ちる。
「ねぇ先輩」
歌うように片桐くんが言った。
それに引き寄せられるように、私は顔を上げて片桐くんを見た。
「弱ってる先輩も好きです、って言ったら怒りますか?」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。