第12話

11話
359
2018/11/16 09:51
練習後、私は帰る気になれなくて、自主練を顧問に申し出て体育館に居残った。
何度かドリブルをつき、シュート打ってみるが、やはり入らない。
……最近、練習に集中できてなかったからだろうなあ。

その原因はやっぱり、多分……。


「お疲れ様です」


ドキッと心臓が跳ねる。
体育館の入口から入ってきたのは、片桐くん。


「これどうぞ」


そばにやって来て、何かを差し出してくる。
その「何か」は、私の好きな桃ジュースだった。


「……え、これ」

「先輩は桃好きだって聞きました。茜先輩から。お金はいいんで、どうぞ」


ニコッと笑いかけられる。
お金はいいって、片桐くんの奢りってことだよね……。それって先輩としてどうなんだろう。

迷いに迷い、結局後輩の好意を無駄にしまいとお礼を言ってジュースを受け取った。

一口飲むと好きな味が口内に広がり、肩の力が抜けて安心する。


「先輩、最近あんまりシュート入ってませんね。スランプですか?」


率直に聞かれ、言葉が出てこなくて息が詰まる。
弱音を人に吐くのは抵抗があった。聞いた方はきっと、かける言葉に困ってしまうだろうから。

私は桃ジュースの入ったペットボトルを持ったまま俯いた。
短い沈黙が落ちる。


「ねぇ先輩」


歌うように片桐くんが言った。
それに引き寄せられるように、私は顔を上げて片桐くんを見た。


「弱ってる先輩も好きです、って言ったら怒りますか?」

プリ小説オーディオドラマ