「……重……」
40人近いクラスメイト達のノートの山を抱え階段を下る。
足元が見えないため一つ一つ視認しながら下りていたら、不意にノートの山が軽くなった。
何事かと顔を上げると。
「ちわっす!手伝いますよ!」
笑顔の片桐くんが斜め前にいて、割と多い量のノートを両手で持っていた。
私は一瞬固まって、自分の腕の中のノートを見た。たくさん積み重なっていたそれは今、半分くらいの量まで減少している。
……片桐くんが半分持ってくれたのか。
「ありがと。正直重かったから助かる」
「はい!ついでに全部持――」
「全部はいい」
「ですよねー。半分までしか許してくれないと思ってました」
ははっと笑い、階段を下りていく片桐くん。
本当に半分までが私のボーダーラインだったので、私はびっくりして足が出なかった。
「職員室前ですか?」
先に二階に着いた片桐くんがくるりと振り返って尋ねてくる。そこで私は我に返り、小走りで階段を下りて片桐くんの隣に並んだ。
「うん、そう」
「りょーかいです!ちょうどオレも国語の先生に用あるんですよ」
「おお」
すごい偶然だな。そういう才能ありそう、片桐くん。
二階の渡り廊下を進み、右に曲がったところにある職員室の前の長机にノートを置く。
その上に片桐くんが彼の運んだ分を重ねてくれた。
「ありがとね片桐くん、助かった」
「いえいえ!じゃ、オレも谷先生に……」
職員室の開いたドアから中を覗いた片桐くんは、あれ、と呟いたと思うと、こちらに引き返してきた。
困ったように頭の後ろをかく片桐くん。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。