第3話

空から運命が降ってくる
2,606
2019/04/09 10:55
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
急患です。佐那城先生
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くーー
思わず、彼の名前を呼びそうなって言葉を飲み込む。
上嶋くんが能美川さんを抱き寄せるようにして、保健室の入り口に立っていた。

能美川さんはしがみつくように、ぎゅっと上嶋くんに抱きついている。




綺麗な顔をしたイケメンと、美少女の生徒会長。

まるで、王子様とお姫様みたいにお似合いだった。


上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
…………
上嶋くんは私と一度だけ目を合わせると、表情も変えず視線を逸した。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
っ……
どくんと、心臓が落ちるような感覚に襲われる。
能美川 明梨
能美川 明梨
う……
佐那城 悟
佐那城 悟
ええっと、能美川さんをこっちに!
麦茶の染みた白衣をそのままに、佐那城先生も能美川さんを支えてベッドに運ぶ。
白いカーテン越しに会話が聞こえた。
佐那城 悟
佐那城 悟
軽い貧血かな……能美川さん、最近まで休んでたから無理したんじゃないの
能美川 明梨
能美川 明梨
いえ……お休みしていた分、生徒会長として責任を取らなければなりませんから
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……あまり無理はしない方がいいですよ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(なんで上嶋くんが生徒会長と……?)
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
それから佐那城先生……
佐那城 悟
佐那城 悟
うん……?
上嶋くんの声が小さくなって聞き取れなかった。

私が聞き耳を立てようとしたら、ザッと突然カーテンが開いて上嶋くんが出てきた。

私はとっさに顔を伏せて、彼から視線を逸す。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(なんで……)





トストスと、上嶋くんの上履きの音が通り過ぎて























――がらりと、保健室のドアが閉まった。























九井原 夕莉
九井原 夕莉
……
佐那城 悟
佐那城 悟
あーっ、ちょっと上嶋くん!
佐那城先生が呼び止めた時にはもう上嶋くんは保健室にはいなかった。
佐那城 悟
佐那城 悟
お礼も言ってないのに……もう行っちゃうなんてなあ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……そういうやつですから
なるべく平静を保って私は言う。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(何も……話せなかった)
私は何を考えているんだろう。

自分から関わらないでって言ったのに。

一言でも、声をかけてほしかったなんて。
佐那城 悟
佐那城 悟
……夕莉ちゃん、君もあまり顔色がよくなさそうだ。ベッドで休むといい
佐那城先生は私の肩に手を置いて、優しく私を気遣ってくれた。

九井原 夕莉
九井原 夕莉
……はい
体の具合が悪いのは本当で、苦い血を今は我慢して飲んでるけど全然満たされない。

薬を使っても、体は少しずつ衰弱していっていた。
ぷるるるると、先生の胸ポケットに入ってる携帯が振動した。
佐那城 悟
佐那城 悟
あっ……ごめんちょっと電話が。ゆっくりしてて、すぐに戻ってくるから
佐那城 悟
佐那城 悟
うわ〜携帯びちゃびちゃだ~……防水で良かったけど
先生は申し訳なさそうに微笑んで、濡れた携帯を耳に当てながら保健室を出ていった。
しん、と保健室に静寂が訪れる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(ここには、私と能美川さんしかいないんだよね……)
能美川さんの様子が気になって、私は彼女が寝ているベッドに近づいた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あの……能美川さん。大丈夫ですか?
カーテンをそっと開けて、様子を伺う。



白銀のような肌が窓から差し込む陽光に照らされ、眠り姫のように能美川さんは横たわっていた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
綺麗……
この人がドレスを着てても不思議じゃないんだろうな。私じゃ似合わないけど。
能美川 明梨
能美川 明梨
……ん










彼女の唇が、心細そうに動く。






能美川 明梨
能美川 明梨
幸寛……?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……え!?
呟かれた名前に、私は驚いて口を塞ぐ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(なんで、上嶋くんの名前を)
能美川 明梨
能美川 明梨
あら……?
長いまつげがゆっくりと瞼に持ち上げられて、能美川さんは目を覚ます。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ご、ごめんなさい! お休みの邪魔をしてそれじゃ……
能美川 明梨
能美川 明梨
待って
能美川さんは私が閉めようとしたカーテンを掴んだ。
能美川 明梨
能美川 明梨
あなた、二年の九井原夕莉さんでしょ?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
えっ……
能美川 明梨
能美川 明梨
ふふ、当たりね
能美川さんは、生徒会長なんだから生徒のことは皆把握してるわと微笑んだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(全校生徒の顔を覚えてるってこと!?)
能美川 明梨
能美川 明梨
どうぞ、ここに座って
言われるがまま、窓際にある椅子に腰掛ける。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あの……お体の具合は大丈夫ですか?
能美川 明梨
能美川 明梨
ええ、倒れた時は不安だったけど……上嶋くんがいたおかげで助かりました
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くんが……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(さっき、幸寛って呼んでた……よね)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(そこまで、親密な関係ってこと?)
能美川 明梨
能美川 明梨
彼から聞いてない? 最近、生徒会に入ってくれたの
九井原 夕莉
九井原 夕莉
生徒会!?
生徒会なんて、一匹狼の上嶋くんが一番好きじゃなさそうなのに。
能美川 明梨
能美川 明梨
ちょうど書記が空いてたから助かったわ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
へえ……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(同じ生徒会なら保健室に連れてくるのは当然だけど――)
密着した二人を思い出して、胸が苦しくなる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(だったらなんで、幸寛って)
能美川 明梨
能美川 明梨
あなた、上嶋くんのお友達?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あ……はい
能美川 明梨
能美川 明梨
そうなのね、良かった









能美川さんは聖母のように微笑んで、こう言った。




















能美川 明梨
能美川 明梨
上嶋くんの彼女じゃなくて
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ーーえっ?
その言葉の意味がわからなくて、私は一瞬固まってしまった。



遠くで、キーンコーンカーン、とチャイムの鳴る音。
目の前で穏やかに微笑んでいる、能美川さん――
???
わっ、どいてどいてー!!
突然の声に振り返ると、上窓から入ろうとしてる男の子が私の上にいてーー



ーー落下してきた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
えっ、何!? ……きゃあっ!


ドサッ!







私は彼とぶつかって床に倒れ込んでしまった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
うう、ん……
???
???
いたた……ってごめん!
後頭部をぶつけて、くらくらする視界。

陽に光る明るい髪色をした男子生徒が私に覆いかぶさっていた。
片方の耳には季節はずれのマスクがぶら下がっている。
指先に、メガネのようなものが転がってる――サングラス?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(イ、イケメンが降ってきた!?)
???
???
ん……? もしかして君って
九井原 夕莉
九井原 夕莉
へっ、ちょっと
彼はじっと、鼻先が触れ合いそうになるほど顔を近づける。

ポケットから不思議な模様をしたカードを取り出して、私と交互に見つめた。
そして、彼から予想外の言葉を聞いたのだった。
???
???
君って、俺の運命の人?

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