そして二十分ほど乗ったところで降りる駅を告げるアナウンスが聞こえる。
明るい声で隼介は返事をする。
その様子に笑っていると、座席のはしにいた涼真が立ち、床においていたカバンを持ち上げるとちょうど私の目線の先にストラップのひもみたいな物が見えた。
新しいこげ茶色のカバンに、不似合いなボロボロのお守りがゆらゆらとゆれている。
自然とそこに視線は集中してしまい、つい「どうしてそんなボロボロなお守り、つけているの?」と、口に出してしまいそうになった。
でも、さっき相良兄弟には複雑な事情があるのだから、これ以上聞かないと決めたところだ。
私は何も考えないように扉から流れてくる強い風を受けながら先に出る二人のうしろに続いた。
そして、駅から家までの道をもう一度案内する。
私たちが住んでいる住宅街は同じ作りの家がずっとならんでいるから、屋根の色やカーブミラーの位置などで判断しないと迷子になる可能性がとても高いのだ。
私と相良兄弟の家の間まで帰って来て、隼介がそれはワクワクとしたいい笑顔で話す。
ややこしい道さえも遊び感覚なのだから、隼介らしいなって思った。
やっと役目が終わり、明日から自由になれると思ったのに、涼真が隼介の頭にポンッと手のひらをおきながらとんでもないことを言い出した。
一歩うしろに離れ、大声で涼真の言葉に言い返す。
それでも涼真は表情を変えず、私に隼介をまかせようとする。
名前を呼ばれ、兄と目を合わせる隼介。
そして隼介は申し訳なさそうにほほえんだままうなずいた。
極上イケメン二人に言い寄られてその勢いに圧倒される。
結局、押し切られた形で、これからも隼介の面倒を見るという約束をするはめになってしまった─────
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!