さらにマズくなったこの状況。
隼介にまでこの姿を見られたらどうしよう! と頭の中ははげしくパニックだ。
私が首だけを左に向けたり右に向けたりしてあわてていると、シャッとカーテンが引かれる音がする。
視線を戻すと、涼真が立ち上がって濃紺色のカーテンを全面に引いてくれていた。
隼介に見せないようにカーテンを引いてくれたんだ……と思うと、体の力が抜けて安心感でいっぱいになる。
涼真のことだから、笑いのネタに隼介に見せるかも……とか思っていたのに。
いちおう、気をつかってくれたんだ、と思うと、ホッとして半分涙目にもなった。
心の中で感謝をしていたら、涼真がカーテンを少しだけ開けて私の部屋の方を見る。
そして、さっきと同じような見くだした顔で私を見て鼻で笑い、それから勢いよくカーテンを閉めた。
感謝の気持ちがめばえ始めたけれど、今の涼真の表情を見たら、そんなもの一瞬でふき飛んだ。
目の前にある濃紺色のカーテンをにらみ、私は低い声でひとり言をつぶやく。
カーテンには二人分の影が映っていて、仲がいい兄弟のしゃべり声が聞こえてくる。
きっとゲームの攻略法で盛り上がっているのだろう。
たんたんとしゃべる涼真の声と、それにリアクション大きく感動した隼介の声が聞こえてくる。
昨日、今日と一緒にいて、それは心からうらやましく感じたことだった。
引っ越して来たとなりの家の家族は、イケメンで、仲が良くて、性格も正反対の男兄弟。
きっとほかの女の子たちからすれば、夢のようなできごとなのだろう。
それでも今までいなかったおとなりさんの存在ができたことは、私の中で大きなできごとだ。
だって、おとなりさんは年が近い男子なんだ。
いつまた見られるかわかったもんじゃない。
そう決意し、私も自分の部屋のカーテンを閉めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。