休み時間になると、道人くんはあっという間に女子生徒に囲まれた。
道人くんは質問をサラッとかわしていくが、囲まれ過ぎて動けないご様子。
けど、道人くんがモテているのをこんな間近で見るのは初めてだった。
女子生徒たちに囲まれている道人くんを見て、胸焼けしたようなモヤモヤを感じる。
気持ちは天邪鬼な言葉に変換され、口から吐き出しそうになる。
私は慌てて教室を飛び出し、階段を駆け上がった。
最上階で屋上につながる扉を抜け、開放的な青空に思いのたけをぶつける。
口から出る言葉は、やっぱり思っていることとは少し違い、気持ちが落ち込んでいく。
後ろから聞こえた声に振り返ると、塔屋の脇に宮原くんが本をもって座っていた。
中学生の頃、天邪鬼で酷い態度を繰り返した私は、同学年の男子から避けられ、一部の女子にも嫌われていた。
幸いいじめられることはなかったけど、陰では暴力女だとか、性格ブスと言われる日々を3年間過ごした。
それを道人くんのせいにして、八つ当たりして……、天邪鬼な自分なんて大嫌い。
思いもせず零れてしまった本音を誤魔化そうと、私は足早に屋上を出ようと扉に手をかける。
宮原くんは本を顎に当て、いたずらっ子のような笑みを私に向けた。
予想もしなかった言葉に、ドアノブを回そうとした手は止まり、彼に見入ってしまう。
そう尋ねると、宮原くんは立ち上がって扉に手をつき私の行く手を阻んだ。
本を持っている方の手で眼鏡をはずし、顔を寄せてくる。
眼鏡をはずした宮原くんは、おっとりと優しそうな瞳のイケメンだった。
けど、その表情は何かを企んだ妖艶な笑みを浮かべている。
我慢できなくなった私は、勢いよく彼に顔を寄せて……。
ゴ
ツ
ン
ッ
!
頭突きをした。
宮原くんはそう言って眼鏡をかけ直し、屋上を出ていった。
私は嵐のような出来事に呆然とし、授業開始のチャイムが鳴ってから急いで教室に戻る。
覚悟は決めたものの、先が思いやられて俯いていると。
宮原くんは私にだけ見えるように自分の唇に人差し指をあて、しーっと小声で言った。
宮原くんの笑みは私をバカにしている様に見えて、少しでも抵抗してやろうとそっぽを向いた。
その時、廊下側の窓から道人くんがこちらを見ていた。しかし、私が気付くのと同時に視線は逸らされてしまう。
確かに先生モードの道人くんはほぼ無表情だけど、何かしら反応はしてくれてる。
冷たい態度ばかりに目がいっていたけど、彼が何を思っているのか、そこまでは考えていなかった。
今までたくさん一緒にいて、道人くんの事なんて嫌というほど知っていると思っていた。
けど、学校には私の知らない道人くんがいて、それに度々傷ついて。
知りたい。
授業終了の鐘が鳴ると、安藤さんが悲鳴を上げながら教壇から戻ってきた。
安藤さんに手を取られ、廊下の先にいる道人くんを追いかけた。
学校での道人くんも知りたいという気持ちを抱き、彼を追いかけることに少し胸が躍る。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。