朝の茶髪男子を避けるようにしてたどりついた最寄り駅。改札から入ろうとすると、予想外の人物と目が合った。そこにいたのは──。
にこり、と微笑む、幼なじみの日吉祐生だった。
祐生を見たとたん、とっさにまぶしいような気がして目をつむりそうになる。
だって祐生は本当にかっこいいのだ!
すこしくせのある黒い髪。おなじ色の瞳が、やわらかい光を宿して私を見つめる。
さわやかで明るくて、いつもやさしい幼なじみ。
ちょっと見上げなきゃいけないくらい背が高いから、私と話すときは少し屈んでくれて。
小首をかしげて微笑む姿は、まるで雑誌のなかから抜けてきたみたいだった。
これは私だけの意見じゃなく、クラスの女子全員一致の意見だ。
成績はトップクラスで教え方も最高。祐生に教えてもらうと私の成績も良くなるくらい。
さらに勧誘されて入った生徒会でも活躍していて、教師からも生徒からも信頼されている。
小学校に入る前にお母さんを亡くしてから祐生は家事もやっているのに、本当にすごいなって思う。いちばん近くで見てきた私が言うんだからまちがいない。
かっこよくて、やさしくて、頼りがいがあって、がんばりやで。
ふしぎそうな顔で祐生に名前を呼ばれた。
考えてみれば祐生を見つけてから、ずっと無言で突っ立ってしまっていたのだ。
あわてて私は「なんでもないよ、ごめん。おはよう、祐生」とあいさつをかえした。
問いかけると、祐生がちょっといたずらっぽい顔で笑った。
私が言うと、祐生が甘い声で「だーめ」と言って微笑む。
言おうとして、私は足元の段差につまずいた。
バランスをくずした瞬間。
ふわ、と。
身体が浮いたように受けとめられた。
祐生の顔が間近にせまる。
気付けば、私の身体は祐生に抱きとめられていた。
きっと私がつまずいたとき、すぐに手をのばしてくれたんだろう。
私がバランスをくずすより早く、的確に。
おどろく私を祐生がきれいな瞳で見つめて、ささやいた。
祐生はすぐに離れてくれたけど、心臓がどきどき激しく動いて止まらない。
いや、止まったら困るんだけど、でも違う意味で止まりそうで。
心のなかで絶叫してしまう。
そう、祐生はずるい。
すごく、すごく、ずるい。
おかげで私は八年間ずっと、幼なじみの日吉祐生に片思いをしてしまっている。
それは、祐生がミキちゃんに絶交されて泣いていた私を探してなぐさめてくれたから。
恋愛予報のことも、疑わずに信じてくれたから。
お父さんやお母さん、お兄ちゃんにも相談できずにいた〝恋愛予報〟。
話せる相手がいるだけで、とっても気持ちが落ち着いた。
ずっとひとりで不安だったんだ、って気付けた。
気付いたときには、もう恋に落ちていた。
だけど私たちの関係はずっと〝友達〟のまま。
じつは最近、何度も挑戦していることがある。
青空高校に入ることを決めたあたりから持っていた野望。それは。
天野ヒカリ、十五歳。一世一代の決心だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。