小学2年生のころ、祐生と約束したときに見た十月の花火。
あれが青空高校の文化祭で最後にあげる花火だと知ったのは中学生のころだった。
以来、私はいつかもう一度あの花火を祐生と見たいと思いつづけてきたのだ。
こんどは友達じゃなく、彼女として。
祐生に異性として意識されているとは思えないし、そもそも祐生は誰ともつきあわない。
だからうまくいくとは今のところ全く思えないけど、賭けてみたかった。
自分の〝恋愛予報〟は見られないし、祐生のも見ないことに決めた。
祐生に告白しようと決意したのは、文化祭の一か月前。
ところがすでに一週間が過ぎてしまって、文化祭まで、あと三週間ぐらいしかない。
今はふたりきりの登校途中。運良くまわりに人はいないし、雰囲気も悪くない。
だから。
私がついに気持ちを打ち明けようとしたとき。
びこん、びこん、びこん!
頭のなかで、ブザーみたいな謎の音がした。
なにが、と、思うよりも前に。
私と祐生のあいだに、とつぜんマークと文字があらわれる。
【晴れ】【大雨】【雷】【雪】【くもり】/【危険・三角関係警報発令中!】
とつぜんあらわれたマークと文字に、私は目をまるくした。
私の言葉に、目の前の祐生が「ヒカリ? どうしたの」と、ふしぎそうにしている。
どうやらこのブザーみたいな音も変なマークも変な文字も、祐生には聞こえていないし見えてないみたい。
こんな表示、見たことない。
コントロールできるようになってから勝手に〝恋愛予報〟が見えるのも初めてだ。
ましてや、音が出たうえ〝警報〟なんて!
びこん、びこん! と、警報みたいな音はどんどん大きくなって。
次の瞬間。
どどどどどどど、と、豪雨が降りだしたのだった──!
激しい雨音が鳴りひびいて、叫ばないとおたがいの声さえ聞こえない。
バケツをひっくりかえしたみたいな雨、とは、まさにこのことで。
私たちは大急ぎで雨宿りしたり、濡れた制服を拭いたりしながら学校に向かった。
もちろん、告白なんてできる余裕はゼロ。
生まれて初めての告白はみごとに空回り、謎の大雨にさえぎられてしまったのである。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。